思いを伝えて サンプル
(前略)
「ギャス」
ケネスがギャスパーに視線を注いでくる。見つめ返しても、黙って目を向けてくるだけだ。彼と恋人同士になってから、このようなことがたびたびあった。
ギャスパーが腕を伸ばして、ケネスを抱きしめる。
「どうした、ケネス」
ケネスが腕の中で、不満そうな顔をした。
「分かってんだろ」
「なんの話だ?」
更に眉をひそめたケネスが、ギャスパーの胸に顔を埋める。
「何ためらってんだよ」
見上げてきたケネスに、ギャスパーが肩をすくめた。
ケネスの言いたいことは、理解している。今の自分たちの関係で、ためらう必要などないこともじゅうぶん承知だ。だが、いざとなると、どうやってその一歩を踏み出すべきか悩んでしまう。
緑の瞳に、期待の色が覗く。彼の口元へ、ギャスパーの視線が移った。その唇が、声もなく「ギャス」と動く。ギャスパーが、目を閉じてそこに口づけた。
(中略)
夜の仕事を終え、シャワーを浴びたギャスパーが、寝間着でベッドに腰かける。眼鏡を外して、ベッドサイドに置いた。振り返り、ベッドの上を見つめる。
数日前、ここでケネスを抱いた。触れた肌の感触も、自分を受け入れた内部の熱さも、愛の言葉をつぶやきながら喘ぐ彼の姿も、全て現実だ。分かってはいるが、いまだに都合のいい夢を見たような気持ちが拭えない。何度も「好き」だと言われて、快感に潤んだ瞳で見つめられて。こんなことが、本当に起きたとは思えない。
おざなりなノックが聞こえ、扉が開く。
「起きてたか」
ケネスが顔を覗かせた。入ってくる彼に、顔をしかめる。
「寝ていたらどうする気だったんだ」
「まあ、その時はその時だ」
ギャスパーの目の前に、彼が両膝をつく。
「ケネス?」
「なあギャス。俺さ、やっぱ舐めてみたいんだよな」
「なんの話だ」
「こないだヤった時、お前の舐めようかって言ったら断っただろ? でもやっぱり、お前の舐めたいって思って」
ギャスパーの肩が跳ねる。ケネスの手が、ギャスパーのズボンにかけられた。
「待て、ケネス」
「嫌だね」