望んでいるのは -if- サンプル
俺は鹿島遊の奴隷だ。その事実に対して、文句があるわけじゃない。あいつを傷つけたのは俺だ。先輩としての俺を慕ってくれていたあいつを押し倒して、犯そうとした。けっきょく未遂だったが、それは問題じゃない。どっちにしても、あいつにひどいことをしたのには変わりないからだ。
ただ、文句があるわけじゃないが、不思議ではある。あいつが俺に求めることは、抱けとか触れとか、全般的に身体的な接触だからだ。その手のことに興味があったとしても、なんでよりによって俺を選んだんだ。俺が得してるだけだろうが。そう思っても、言えない。俺はただ、あいつの命令を聞くだけだ。これから先も、ずっと。
「私を満足させてください」
今日もそんな言葉に従って、初めて訪れた鹿島の部屋で、そいつを抱いた。鹿島の匂いで満ちたその場所にひどく興奮して、同時に悲しくなった。ここで鹿島と寝る男は、本当なら、鹿島と愛し合い心を通わせた相手のはずだろうに。なんで俺なんかを、ここに連れこんじまったんだ。
いや、考えるべきじゃない。これがうちの女王様のご意向だ。俺はただ、その意思に沿うだけだ。
そんなことを思考する俺には目もくれず、ベッドの上で、鹿島が服装を整えていく。俺はカーペットが敷かれた床に座り、ただそれを眺めていた。
服を着終えた鹿島が、俺に向き直る。
「借りてきた猫みたいって、こういう状態のことを言うんですね」
冷たい瞳が俺を見た。
「そりゃ、おまえの部屋だしな」
「まさか緊張してるんですか? することもしておいて今更?」
肩がこわばる。鹿島が眉を寄せて、息をついた。
「まぁいいです。本題に入りましょう」
「ああ」
鞄のポケットを探り、鍵を取り出す。鹿島に近づくと、それを差し出した。ひったくるように受け取ったそいつが、手の中の鍵を見下ろす。
「先輩って、馬鹿ですよね。合鍵なんて渡したら、私がいつ部屋に入ってくるか分かりませんよ。プライバシーなんてあったものじゃありませんし、おちおち彼女も作れません」
「別に作る気ねぇよ。おまえと会った上で他の女とも、なんてできるほど器用じゃねぇし」
鹿島の表情が少し歪んだ。