拍手お礼5
2017/2/16~2017/10/10の拍手お礼です。嘘しか言えない堀ちゃんと、全部わかってる鹿島くんの話。論理パズルで見かける“正直族と嘘つき族”がモチーフのつもりですが、何か違う気しかしません。
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「先輩、好きです」
鹿島が笑顔を向けてくる。
「俺は、おまえが嫌いだ」
そいつが笑みを深めた。
「知ってますよ。大好きです、先輩」
こいつの笑顔は、すごくまぶしい。こいつにこう言ってもらえる資格が、俺にあるんだろうか。
「先輩、また私のことで悩んでるんですか?」
「そんなんじゃねぇ」
鹿島が小さく笑い声を漏らした。
「分かりやすいですね、先輩」
「うるせぇ、少し黙れ」
「嫌です」
また笑って、鹿島が俺を見る。
「そんなこと言われたら、黙れませんよ」
そりゃそうだろうな。こいつはぜんぶ分かってるんだから。俺は、嘘しかつけないんだって。
「本当のことを言えなくて、よかった」
「そうですね」
鹿島が俺の手を握る。
「全部、言ってることと反対って思えばいいだけなんですから。本当に、分かりやすいですよ」
こいつはこう言ってくれるが、本当にそれでいいんだろうか。例え嘘でも、嫌いだと繰り返し言われれば、こいつだって傷つくはずだ。
「先輩」
鹿島の手に、力がこもった。
「もし、私が傷ついてるかもって思ってるなら、それは間違いです。私は先輩といるといつも楽しいし、嬉しいし、嫌だと思ったことなんて一度もないんですから」
また笑顔を見せられる。こう言われてしまうと、悩んでいられないな。こいつの言葉は、いつでも本当なんだから。
鹿島の手を握り返す。目を丸くした鹿島が、また顔をほころばせた。
「先輩ってば、言葉はあまのじゃくですけど、身体は正直ですね」
そんなエロ漫画みたいな言い回し、どこで覚えたんだ。
鹿島が眉間をつついてくる。
「先輩、何ムッとしてるんですか?」
「別にしてねぇ」
「あっ、認めましたね。ムッとしてましたね」
「ほんと、いちいちうるせぇなおまえ」
鹿島が快活に笑う。よく笑う奴だ。
「先輩って、本当に気になったことは訊いてこないですよね。訊いちゃったら、気にしてますって表明してるようなものだからですかね」
そういう分析はいい。
視線を下げると、鹿島の鞄から覗く物が見えた。何か、袋だろうか。
「あっ、これですか?」
鹿島が鞄から、それを取り出す。マフィンが袋に入れられて、ラッピングされたものだ。
「調理実習で作ったんです。持って帰って食べようと思ってたんですけど」
窺うように、鹿島が俺を見る。
「先輩、これがちょっと気になったりなんて」
袋の中のマフィンに、視線を注ぐ。
「おまえの手作りなら、いらねぇな」
鹿島が瞳を輝かせて、俺にそれを差し出した。
「本当ですか!? 先輩、手作り苦手なんじゃ」
傍から見れば、わけの分からない会話だな。
少し口角を上げて、鹿島へ目を向ける。
「おまえの手作りは食えねぇ」
「はい! どうぞ召し上がってください!!」
とびきりの笑顔を向けてくる鹿島から、それを受け取る。
「変なもん押し付けてきやがって」
いつか素直に、「ありがとう」と言える日が来るんだろうか。
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update 2017/10/10