三つ編みの彼女
『みつあみ四重奏』という少女漫画のパロ的なものです。髪型を変えると人格も変わる結月の小話。
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「ねぇ結月。たまには違う髪型もしてみない?」
瀬尾結月が佐倉千代に目を向ける。
「違う髪型って、コンクールのやつ以外で?」
「うん。結月ってコンクールのとき以外はいつも、シュシュで束ねてるだけでしょ? たまには他の髪型も見てみたいなって」
瀬尾が机に頬杖をついた。
「変える作業がめんどくせぇ」
「私がやるよ。それならいい?」
笑顔の佐倉に、瀬尾が肩をすくめる。
「まぁ、それなら」
「ありがとう!」
佐倉が鞄から櫛を取り出した。瀬尾のシュシュを髪から外し、櫛を通していく。
「結月って髪きれいだよね」
「そうか? 適当に洗って適当に乾かしてるだけだけどな」
「確かに、合宿やお泊りのとき見た感じじゃ、特別なお手入れしてなかったよね。それでこんなに綺麗なんてうらやましいな」
佐倉が瀬尾の髪を手に取る。
「どういう髪型にしようかな。せっかくだから、結月が自分じゃしなさそうな、ちょっと手間のかかる髪型がいいかな」
瀬尾の髪をしばらく見つめて、佐倉が顔をほころばせた。
「そうだ、三つ編みにしよう」
「三つ編み?」
「うん」
佐倉が瀬尾の髪を手でより分け始める。
「この辺まで右側で、残りは左側にして。で、この髪を三つに」
「聞いてるだけでめんどくせぇな」
「ごめん、もうちょっとだから」
瀬尾の髪を、佐倉が少しずつ編み込んでいく。されるがままの瀬尾に、クラスメイト達が視線を注いでいた。
髪を編み終えた佐倉が、細いリボンでそれを束ねる。鞄から手鏡を出し、瀬尾の前に差し出した。
「ほら、こういう感じになったよ」
瀬尾が手鏡を受け取り、見つめる。
「いつもの印象とだいぶ違ってて新鮮だし、かわいいよ結月!」
手鏡を見ながら、瀬尾が編まれた髪に触れた。
「そういえば昔、三つ編みにしてた時もあった気がする」
「そうなんだ! じゃあ、久しぶりの三つ編みなんだね」
「うん」
瀬尾が口元を緩める。
「懐かしいなぁ」
佐倉が目を丸くした。
「結月。なんか、雰囲気が違うような。髪型が違うってだけじゃなくて」
瀬尾の表情が、柔らかい微笑になる。佐倉を見ながら腰を上げ、手鏡を彼女に渡した。
「ありがとう、千代」
「う、うん」
佐倉が、戸惑いながら瀬尾に目を向ける。
「なんか、話し方も違うし」
瀬尾が小さく笑い声を立てた。
「千代。私、ちょっと教室の外を歩いてくるね」
「えっ、なんで!?」
瀬尾が思考する。
「若が見たら、どんな反応するか気になるじゃない」
「あっ、確かに!」
両手を握りしめた佐倉に手を振り、瀬尾が彼女に背を向ける。
「若と会えたら、どんな感じだったか報告するから」
「うん! 行ってらっしゃい結月!」
廊下に出て歩く瀬尾を、周りの生徒たちが訝しげに見る。視線を受けながら進み階段に差し掛かると、降りてきた若松博隆と目が合った。
「あれ、瀬尾先輩?」
瀬尾が満面の笑みを浮かべる。
「若!」
若松が眉を寄せた。
「なんですか、その反応。頭でも打ったんですか?」
「違うよ。三つ編みにしたからなの」
若松が眉間のしわを増やす。
「なに言ってるんですか?」
瀬尾がかすかに笑った。
「私、髪型を変えると人格も変わるの。意味わからないだろうし、信じてもらえるとも思ってないけど」
若松が瀬尾に視線を注ぐ。
「人格が?」
「うん。今の私が、あなたの知る『瀬尾結月』に見える?」
階段の中ほどにいた若松が、降りてきて瀬尾を見つめる。
「あなたは、どう見ても瀬尾先輩ですけど」
若松が溜息をついた。
「『瀬尾先輩』が演技してるだけって感じには見えないというか、確かに人格が違うって言うのが正しいような気がします」
瀬尾がまた笑い声を立てる。
「そっか」
若松と距離を詰め、彼の胸板に手を置いた。
「先輩?」
「ねぇ若。普段の『私』と今の私、どっちがいい?」
「はぁ!?」
更に近づき、若松に顔を寄せる。
「前に髪型を変えた『私』と話した時、私がしゃべらないの嫌だったのよね」
「えっ? まぁ、はい」
「つまり、あの『私』よりは普段の『私』のほうがいいってことでしょ? なら、いつもの『私』と今の私だったら?」
若松がまた、瀬尾を注視する。
「そんなこと」
「私、ちゃんと若と会話するよ。ボールをぶつけて気絶させちゃうこともないと思うし、どう?」
微笑を浮かべる瀬尾を、若松が引き離した。
「嫌です」
瀬尾が目をしばたたかせる。
「確かに会話してますけど、話し方から何からぜんぜん違うじゃないですか。こんなの瀬尾先輩じゃないです。ボールをぶつけられるのは確かに困りますけど、あれがないと、瀬尾先輩とバスケしてるって感じしないじゃないですか」
瀬尾から手を離し、若松が眉を上げた。
「俺は、いつもの『瀬尾先輩』がいいです。あの乱暴な『瀬尾先輩』が好きなんです」
呆けていた瀬尾が、口端を緩める。口元を押さえながら笑い声を立て、
「そっか、分かった。変なこと言ってごめんね」
眉をひそめた若松に、瀬尾がまた笑った。
「なら今の言葉、いつもの『私』にも言ってあげてくれる? いつもの『私』に戻ったら、何も覚えてないから」
「分かりました」
若松の手が、瀬尾の髪に結ばれたリボンをほどく。滑るように髪がほぐれ、三つ編みがなくなった。
「あ、あれ?」
瀬尾が何度もまばたきする。
「私、なんでこんなとこにいるんだ? 確か千代に髪型を変えてもらってたはず」
「瀬尾先輩」
瀬尾が若松を見た。
「好きです」
肩を跳ねさせた瀬尾が、若松から離れ壁に隠れる。わずかに顔を覗かせて、
「冗談、だよな?」
「違います。本当に好きです、瀬尾先輩!」
また逃げ出した瀬尾を、若松が追いかける。走る彼女を見る若松の顔は、嬉しそうな笑顔だった。
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update 2017/3/22