心は遠く 鹿島side | Of Course!!

心は遠く 鹿島side

 真っ暗な廊下を歩きながら、自分の唇に触れる。さっきの感触が蘇ってきて、頬がほてってきた。

 びっくりした。堀先輩の興味の対象は私の足とか、彼を受け入れる場所とか、言ってしまえば下半身だと思ってた。キスをされたのは、完全に予想外だった。今までも先輩、私とキスしたいって思ってたのかな。今まで命令したことなかったけど、そうだとしたら悪いことをしたな。先輩とキスしてみたいと思ったことはあったけど、彼は望んでないと決めつけてしまってた。

 それにしても、明日からどうしよう。先輩との密会が、二週間もないなんて。自分で言い出したことだけど、早まったかな。これで会える時間が日中と、部活の時くらいになってしまった。しかも部活はさっき言われた通り、先輩の引退が近い。先輩と前みたいに話せる時間が減ってしまう。

 馬鹿なことをしてるとは、自分でも思う。わざわざ先輩を従わせて、触らせて、何をやってるんだろう。こんなふうに触れ合っても、むなしいだけなのに。私と先輩は恋人同士じゃないし、私が先輩を好きなことを、彼は知らない。何度もすることをしてるのに、なんだか片思いをしてる気分だ。先輩が私を女として求めてくれてるのは分かってるから、正確には違うんだけど、気持ちとしては同じようなものだ。どんなに肌を重ねても、気持ちは通じ合っていないんだから。

 先輩に初めて押し倒されたあの時に、「気にしてませんよ」って笑って流せばよかったのかな。それともいっそ、抵抗せずに彼を受け入れてしまうべきだっただろうか。でもどっちにしても、彼は気にするだろうし、とんでもないことをしたと落ち込みそうだ。さっきだって別に、キスくらい素直に許してもよかった。けど私の命令にないことをやったと気づいた時点で、例え私が怒らなくても、真面目な先輩は負い目を感じたに違いない。だったら罰を与えたほうが、彼も後で気が楽になると思う。

 そういえば前、片思いの切なさを知るために、先輩と話さないようにしたことがあったっけ。いま私が感じている胸を刺すような痛みは、それに限りなく近いのかもしれない。でも、こんな形で知りたくなかったな。

 もう一度、唇を指でなぞる。まさかこんなふうにファーストキスを経験するなんて、思っていなかった。さすがに、劇のようなドラマチックなキスとまでは考えていない。けどちゃんと両思いで、お互いを好きな気持ちが高まってするような、幸せなものだと思っていた。今の私と彼は、世間一般の恋人たちが感じる甘い感情とは、完全に無縁だ。ここいらで「もう怒ってませんよ」とでも、彼に言うべきなんだろうか。でもさんざん振り回して、言うこと聞かせておいて、気が済んだからもういいなんて虫がよすぎる。きっともう、戻れないところまで来てしまってるんだ。

 それにしても、先輩の唇やわらかかったな。また、あの感触を味わいたい。先輩に、キスしてほしい。お仕置きが終わったら、いっぱいしてもらおう。前みたいにご褒美ってことにすれば、彼にも変に思われないよね。

 でもその前に、二週間を私が耐えられるだろうか。正直ちょっと自信ない。何か理由をつけて、日中に会いに行こうかな。その時は彼と、前と同じように話せる。先輩が笑ったり、叱ったりしてくれる。そして私も、彼に笑いかけることができる。ただの先輩後輩でいられる。

 靴を履き替えて、校舎を出る。空を見上げると、丸い月が浮かんでいた。

「あ、綺麗」

 先輩も今、この月を見てるのかな。例え気持ちがすれ違っていても、隣にいなくても、同じ景色を見ているかもしれないと思うとなんだか嬉しいな。

 さて、明日からどんな理由で先輩に会いに行こうか。校門に向かいながら、考え始めた。

 

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update 2016/8/22