心は遠く 堀side | Of Course!!

心は遠く 堀side

 鹿島が俺に背中を向けて、制服を整えている。さっきからこいつが、一言も発しないのが怖い。鹿島のやつ、ぜったい怒ってるんだろうな。

 やっちまった。鹿島との行為中に、思わずキスをしてしまったんだ。やることはやってるとはいえ、それだけは今まで許可されたことがなかったのに。キスを許されなかった理由は分からないが、とにかく鹿島の命令にないことをやらかしたのは事実だ。実際、やった直後はかなり睨まれた。

「先輩」

 鹿島の声に、背筋を伸ばす。

「私とキス、したかったんですか?」

 冷たい声はいつも通りで、感情が読めない。

「あ、ああ」

「……そうですか」

 鹿島が振り返る。

「したいなら、別に構いませんけど」

「本当か!?」

「ただ、私の命令にないことを勝手にしたんですから、お仕置きは受けてもらいます」

 そうだよな。やっぱり、ただで済むわけねぇよな。

「お仕置きって」

 鹿島が考えるそぶりを見せる。

「そうですね。明日から二週間、人のいないところでは会わないし話さない。もちろん、セックスもなしです」

「は!?」

 ちょっと待て、前より延びてるじゃねぇか。

「前も似たようなことをしたので芸がないとは思いましたけど、先輩によく効くお仕置きはこれみたいなので」

 ああ、効くよ。抜群に堪えるよ。例え人前では前と同じように話せるとしても、学年だって違うし、会うタイミングなんて限られてくるからな。

 鹿島が、冷ややかな瞳で俺を見つめている。

「分かった」

 どうせ俺に、選択肢なんかないんだ。

「先輩がちゃんと我慢できたら、セックスしてる間はキスしていいです」

「ヤってる時だけかよ」

 鹿島が目を眇める。

「不満なんですか?」

「い、いや、全く」

「なら最初から口答えしないでください」

 置いていた鞄を手に取った鹿島が、背中を向けてきた。

「帰りますよ」

「待ってくれ。お仕置きは明日からなら、今日のうちに話しときたいんだが」

 鹿島が顔を向けてくる。

「そろそろ俺も引退だし、今みたいに部活後に会うのも難しくなってくるし」

「そういう前置きはいいですから、用件を言ってください」

 身体ごと鹿島がこっちを向いた。

「大体、引退するからなんだっていうんですか? 何も変わりませんよ。先輩が引退しようと、卒業しようと、大学生になろうと」

 そうか。まだこれからも、俺をおまえの傍に縛り付けておく気はあるんだな。

「引退はともかく、卒業したら学校で会うのは難しくなるだろ。だから部屋が決まったら、合鍵をおまえに渡そうと思ってる」

「部屋? ひとり暮らしするんですか?」

「ああ。もらってくれるか?」

 鹿島が眉間にしわを寄せた。

「なんですか、その質問。私が拒否したら、どこで会う気なんですか。もらいますよ。学校じゃ他の人が来る可能性もありますし、そのほうが都合いいですから」

 その答えに、胸を撫で下ろす。

「そうか。じゃあ部屋が決まったら、なるべく早く渡す」

「はい。忘れたら承知しませんよ」

「忘れるわけねぇだろ」

 会える場所がなくなったから会わない、なんて言われないようにひとり暮らしを決めたんだからな。

 鹿島がまた背中を見せた。

「じゃあ、今度こそ帰りますよ」

「ああ」

 俺も鞄を持って、歩き出した鹿島を追う。部室を出て鍵をかけている間にも、鹿島は廊下を進んでいた。

「お、おい鹿島」

「職員室まで鍵を返しに行くの、待ってられませんから。それではまた」

 こっちを気にするそぶりもなく、鹿島が俺から遠ざかっていく。追うのを諦めて、鍵を片手に溜息を吐いた。いつものことではあるけど、明日からのお仕置きのことを考えると、少しでも長く一緒にいたかった。

 手の中の鍵を見下ろす。実のところ、合鍵のことも却下されるんじゃないかと思っていた。わざわざ俺の部屋に来る手間を取らせることになるし、そんなことをしてまで会いたくないと言われそうな気がしてたんだ。でも、鹿島は応じてくれた。それどころか、忘れたら承知しないときたもんだ。そんなこと言われたら、もしかしてあいつも俺と一緒にいたいと思ってくれてるんじゃないか、なんて夢を見そうになる。でも多分、そんな感情じゃないんだろうな。ただ、奴隷を手放したくないだけなんだろう。けど、それでいい。

 鍵を握りしめ、鹿島の歩いていったほうを向く。明日からは理由をつけて、周りに他の奴らがいる時に会いに行こう。その時は鹿島も、前と変わらず接してくれる。ちゃんと俺と、話をしてくれる。会いに来すぎだと後から怒られるかもしれないが、その時はその時だ。

 それにしても、鹿島の唇やわらかかったな。また、あの唇に口づけたい。明日からのお仕置きを耐えられれば、限定的ではあるけどそれも許可してもらえるんだ。前にやっぱり口を利いてもらえなかった時は、一週間くらい経った頃に呼び出してきた鹿島が、耐えたご褒美だと言っていつもより好きにさせてくれた。今回も、それがあるんだろうか。いやなくても、会える時間が増えるだけでいいんだけどな。

 すっかり暗くなった廊下を歩きながら、明日からどうやって鹿島と会う機会を作るか、考えを巡らせ始めた。

 

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update 2016/8/22