望んでいるのは 鹿島side
堀先輩が、ずっと私の足を舐め続けている。私がそう命じたからだ。さすがにずっとそうされていると、私も変な気分になってくる。先輩を受け入れてもいいと思っているけど、ちゃんと先輩を制しないといけない。簡単に許しちゃいけない。そうじゃないと、この人はきっと、欲望に流された自分を責めてしまう。
初めて先輩に押し倒された時は、とても驚いた。まさか彼が、私をそういう対象として見ているとは思ってなかった。彼が異性なのは分かっていたけど、そのとき改めて実感して、正直なところ少し怖かった。欲にまみれた目をした先輩が、知らない人のように思えたからだ。でも私が震えて怯え上がったりでもしたら、我に返った時、先輩はとてつもない罪悪感を覚えたに違いない。あの時はたまたま欲求が勝っただけで、基本的に彼はとても優しい人だ。怖がる後輩を無理やり犯したなんてことになれば、自分をずっと責め続けただろうし、私の前から姿を消すことも考えたかもしれない。もしそんなことになって、先輩がいなくなったりしたら嫌だ。
だから私は考えた結果、先輩に冷たく当たることにした。けっきょく何もなかったあの時ですら、罪悪感で縮こまっていた先輩に、「私に従う」という条件を飲ませるのは簡単だった。先輩を男性として好きなんだと気づいたのは、彼とその約束をした後だった。でも、気づいたところでどうしようもない。私にひどいことをしたと気に病んでいる先輩に告白したところで、素直に受け入れてもらえるとは思えなかった。
先輩が、懇願するように見上げてくる。それに息を吐いた。
「撫でるのは許可します。でも足だけですよ。他のところを触ったら承知しません」
「分かってる」
足から口を離した彼が、右手で太ももを撫でさすってきた。その表情が少し喜んでいるように見えて、緩みそうな顔を慌てて引き締めた。
先輩、好きです。あの時は怖がってすみませんでした。私はあなたに対して怒っても、恨んでもいません。先輩にたくさん、触ってほしいです。触っていいって言いたいです。先輩の、好きなようにしてくれて構いません。でもきっとあなたは、欲望のままに私に触れたりしたら、あの時のことを思い出してしまうのでしょうね。
だから私は、私が許可を出して触らせてあげるという形を取るしかない。それが先輩の罪悪感を刺激せずに、彼に触ってもらえる方法なんだ。どこに触ろうが、最後までしようが、彼は私が求めたことに従っただけということにできる。彼が、罪の意識を感じなくて済む。でもこれは、彼が私に従ってでも傍にいようとしてくれるからこそ、成り立っていることだ。私の許しなんていらないから関係を解消したい、と言われればどうしようもない。彼の気持ちが自分にあることを知ってこの関係を続けているなんて、私はずるい女だ。
「ねぇ先輩。したいですか?」
先輩が期待するように見つめてくる。
「していいのか?」
「いいですけど、痛くしたら許しませんよ」
「分かってる」
先輩が腰を上げて、私を抱きしめてきた。抱き返しそうになった腕を留めて、制服を脱がせてくる先輩に身を任せる。本当は私も抱きしめたいけど、変に先輩の心を乱すことはしないほうがいい。
痛くするなと言っているからか、彼の抱き方はすごく優しい。初めての時はさすがに痛かったけど、労わるように触れてくる手がとても温かくて、泣きそうになったっけ。好きな人に抱かれて嬉しいのに、経緯を考えると、素直に喜べなかった。本当は命令して抱かせるんじゃなくて、ちゃんと彼と気持ちを通じ合わせて抱き合いたかった。
それでも私は、彼を手放せない。私とまともに恋人同士になることはためらうであろう先輩に、命令することもやめられない。まるで私が女王で、彼が奴隷みたいだ。でもそれで彼が抱いてくれるなら、一緒にいてくれるなら、それでいい。いちばん恐ろしいのは、彼が関係の解消を望むことだ。決して彼からそれを言い出すことはないだろうけど、彼がそうしたがっているそぶりを見せたりでもすれば、どうすればいいのだろうか。優しい彼に負い目を感じさせずに関係を変える方法が、私には分からないんだ。彼の罪悪感を利用して、縛り付けることしかできない。
だから先輩、私から離れないでください。
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update 2016/8/18