望んでいるのは 堀side
書いてたとき眠かったせいか時系列ガバガバなので、その辺りは適当に流していただけるとありがたいです。
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「部長、ちょっといいですか?」
声に振り返ると、真剣な表情の鹿島が立っている。
「台本の二十三ページ目の、ここのセリフなんですけど」
台本を指す鹿島に向き直り、該当の部分を見る。
「ああ、これか」
「はい。このセリフを言う時の、王子の心境なんですけど」
「そうだな、ここは」
真剣な表情で話す鹿島に、俺も答えていく。こいつはサボり癖が難点だったが、もともと演技自体には真摯に向き合っていたほうだ。最近じゃサボり癖も治ってきて、もはや何も言うことはない。
ひと通り話し終わると、鹿島が嬉しそうに礼を言ってくる。それから、俺の耳元に唇を寄せてきた。
「先輩。この後、残ってくださいね」
低い、けど王子として振る舞う時とも違う声に、背筋が震える。
「あ、ああ」
曖昧に頷いた俺から離れ、鹿島が笑った。
「そうだ先輩。このまま読み合わせ付き合ってもらえますか?」
「ああ、構わねぇけど」
「ありがとうございます!」
満面の笑みを浮かべ、鹿島が台本に目を落とす。それから口を開いたそいつは、もう立派な王子だった。
それから時間が過ぎ、部活が終わる。部員たちも帰っていき、部室に残ったのは俺と鹿島だけだ。
周りに誰もいないのを確認してから、鹿島が適当な椅子に腰を下ろす。俺に向けられた目は、部活中のにこやかさが嘘のように冷たい。
「何ぼーっと立ってるんですか? こっちに来てください」
鹿島に歩み寄ると、床にひざまずくようジェスチャーで指示される。それに従った俺に、鹿島が左足を差し出してきた。
「上履きと靴下を脱がせてください」
鹿島の上履きに手をかけ、少しずつ脱がせる。靴下もゆっくりと抜き取ると、白い足が現れた。華奢だが細すぎるということもないその足は、なんど見ても綺麗だ。唾を飲み込んだ俺を、鹿島が蔑むように見下ろす。
「本当に好きなんですね。まぁいいです、舐めてください。撫でたり揉んだりしたら承知しませんよ」
言葉に詰まりながらも、鹿島の足を両手で持つ。すねに舌を這わせ始めた俺を、鹿島は変わらず冷やかな目で見ていた。
そもそもの始まりは、三か月ほど前のことだった。今と同じように部活が終わった後、二人きりになった時のことだ。その時は示し合わせたわけじゃなく、たまたまそうなっただけだった。
『すみません、先輩。私の靴下しりませんか!?』
女子更衣室から慌てて出てきた鹿島は、素足に上履きというどこかで見たような出で立ちだった。そのとき初めて、俺は鹿島の足へ意識を向けた。そして、気づいたんだ。それが前に写真で見た、理想の足だってことに。
気がついた時には、鹿島を押し倒していた。元から役者としての才能には目をかけていたし、人間的にも好ましく思っていた相手だ。多少なりとも、女として意識してもいた。ましてや足まで好みとなると、もう触れずにはいられなかったんだ。
当然、鹿島には抵抗された。それでも何とか押さえ付けようとした俺の手を、鹿島が渾身の力で振りほどいてきた。
『やめてください』
そう言った鹿島の目は、俺を軽蔑しているように見えた。その瞳で我に返った俺は、鹿島を組み敷くのをやめた。そのとき気づいたが、心のどこかで俺は、最終的に鹿島は受け入れてくれると思い上がっていた。いくら鹿島が俺を慕ってくれてても、それはあくまで先輩としてであって、男女としての情じゃないのに。何で、そんな勝手なことを思えたんだ。
俺はその場で膝をついて、鹿島に頭を下げた。そのとき鹿島が、どんな顔をしていたかは知らない。ただ、
『許してほしいですか?』
そう訊いてきた声は、驚くほど冷徹だった。それでも俺は、許してくれる姿勢を見せた鹿島に縋った。そんな俺に、鹿島が告げたんだ。
『私に従ってください』
俺はそれを、二つ返事で了承した。鹿島が許してくれるなら、傍にいてくれるなら、こいつの奴隷になってもいいと思った。そんな俺に鹿島が提示した条件は、他の奴らがいる前では今まで通りに振る舞うことだった。例え人目がある時だけでも、これまでと同じように接してくれるなんて、こんなにありがたいことはない。未遂とはいえ襲い掛かった以上、もう二度と笑顔を向けてもらうどころか、顔も見たくないと思われてもおかしくはなかったんだからな。
そんなことを思い返しながら、舌をちょっとずつ上に這わせていっていた俺は、鹿島の太ももを舐め回している。舐めるのもいいが、可能ならこの太ももを思いきり撫でさすりたい。だがそれを前にやってしまい、鹿島の機嫌をかなり損ねたことがある。我慢だ我慢。
鹿島の足を舐めながら、脚の付け根へ視線を向ける。その奥には、何度か入ったことがあった。
「どこ見てるんですか? 私の許可なくそんなところを見るなんて、いけない人ですね。そんなんじゃ、今日はさせてあげませんよ?」
慌てて視線を逸らし、鹿島の足に集中する。とはいえ、俺だって男だ。いくら足が好きでも、そこだって気になる。でも、下手なことはできない。また襲い掛かることでもあろうものなら、今度こそ鹿島は俺から離れていくかもしれない。それだけは嫌だ。
本当のところ、鹿島が何を考えているのかは分からない。何でこんなことをさせるのか。何で抱かせてくれたのか。こいつはいま俺を、どう思っているのか。俺は、何も知らない。
鹿島を初めて抱いたのは、やっぱり誰もいない部室でのことだった。いきなり床に寝転がったこいつが、俺を見上げて抱くよう求めてきたんだ。
『私と、そういうことしたいんでしょう? いいですよ、させてあげます。私の処女をあげるんですから、痛くしないようにしてくださいね』
そんなことを言われたけど、経験のない俺には到底むりな話だった。その時はそうとう痛がらせてしまい、一週間くらい人前以外で口を利いてもらえなかった。あれはかなり堪えたな。
考えてみれば鹿島だって、年頃の女だ。いつも女に囲まれていようが、王子としての姿が様になっていようが、それは変わらない。人並みに、異性に興味があってもおかしくはない。男を知るための相手として、何となく俺を選んだだけなのかもしれない。だが、それでもいい。どんな理由でも、鹿島が俺を選んでくれて、俺に初めてをくれたのは事実だ。
鹿島は俺を、許してくれているのだろうか。気になるけど、確認しても仕方がない。俺がこいつに狼藉を働いて、許しを請う立場である以上、こいつから言い出すまでこの関係は終われないんだからな。
ずっと鹿島の足を舐め続けて、舌が乾いてきた。でも鹿島は、何も言わず俺を見下ろすだけだ。俺はいつまで、こうしていればいいんだ?
いや、それも考えるだけ無駄だ。例えこいつが許してくれなくても、俺はこいつの傍にいられれば、それでいいんだから。こいつは女王様で、俺が奴隷。お情けで、気まぐれに触らせてもらえるだけの存在。こいつが望む限り、俺はその役割を演じてみせる。
だから鹿島、俺を捨てないでくれ。
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update 2016/8/18