クールな人
ガン流のラリーペーパー用に書いたものでしたが、別の内容で書き直すことにしたので、こっちに掲載します。クーデレネタの小話です。
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「先輩、クーデレって聞いたことありますか」
後輩の鹿島が、真面目な顔でそんなことを訊いてきた。
「いや、ねぇけど。何だそれ、新種の菓子か?」
「違います。何でも、クールとデレが合わさったものらしいです。ツンデレの仲間? みたいなのらしくて」
「へぇ」
野崎からそういう話は、特に聞いたことないな。
「何でおまえがそんなの知ってるんだ」
「あるお姫様が最近ハマってる漫画に、そういうキャラが出てくるらしいんです。それで直接いわれたわけではないんですけど、どうも私にそういう感じの振る舞いをしてみてほしいみたいでして。でも具体的にどういう感じか、よく分からないんですよね。本人に訊くのも、あまりスマートじゃないし」
確かに、クールでデレっていうのが想像つかない。だがそれができれば、鹿島の演技の幅を広げられる可能性があるな。
「分かった。じゃあ、クーデレな王子を一つ考えてみるか」
「えっ、一緒に考えてくれるんですか? やったー」
両手を上げた鹿島と共に、近くのベンチに腰かける。しかし、これは難しそうだ。
「クールだけどデレ、なぁ」
「はい。彼女が言うには、決して笑顔は見せないけど、優しさや好意は素直に出てきてるのがいいらしくて」
「ますます分かんねぇ」
ふたり揃って、両腕を組みながら考える。鹿島が左手のひらを拳で叩いて、俺を見た。
「先輩。試しにちょっとやってみるので、付き合ってくれますか?」
「ああ、別にいいけど」
「悪いですけど、先輩から何か話しかけてもらってもいいですか? 多分、口数は少ないほうがいいと思うので」
「そうだな。よく分かんねぇけど、クールってくらいだし、あまり自分からは声をかけなそうだからな」
頷いて、鹿島のほうを向く。
「ここ最近、暑い日が続いてるな」
「そうですね。水分補給はちゃんとしてますか? 先輩が熱中症で倒れたりしないか、いつも気になってるのですが」
「そんなの気にしてもらわなくても、ちゃんとしてるぞ。おまえはどうだ」
「私もそこは抜かりないです。舞台の上で倒れるわけにはいきませんから。ご心配いただいて、ありがとうございます。先輩が私を気にかけてくれて、とても嬉しいです」
澄ました顔でお辞儀した鹿島が、頭を上げる。互いに何とも言えない表情で、顔を見合わせた。
「なぁ鹿島。ついさっき、口数がどうこうって言ってたが」
「はい」
「おまえのセリフ、多くなかったか?」
「私もそう思いました」
思ったのかよ。じゃあ言うな。
鹿島が眉をひそめる。
「考えたんですけど、そもそもデレとか置いといても、私に無口キャラって難しいと思うんですよね」
「そこからか」
でも確かに無口となると、キザなセリフもあんま言えなくなるしな。こいつにはハードル高かったか。
「結局、クールでデレってよく分かりませんでしたね」
「おまえもう諦めたのか」
「んー……まぁクーデレをしてほしがってるっていうのも、彼女の様子から私が勝手に判断しただけですからね。もし違ってたら恥ずかしいですし、確実にそうだと判明したら、またその時に考えます」
伸びをして、鹿島が空を見上げる。
「それにしても、クールかぁ」
鹿島の視線がこっちに向けられた。
「何だ」
「いえ、別に」
そう答えながらも、鹿島の目は俺を見たままだ。何がしたいんだこいつ。
しかし早々に諦めたとはいえ、取り巻きの女子ひとりのためにこんなことを始める辺り、やっぱり他人を喜ばせるのが好きなんだな。
「まぁ今回はこんな感じで終わったけど、おまえの研究熱心なとこ、悪くねぇと思うぞ」
部活にもそれを存分に発揮して、俺を喜ばせてくれれば言うことはないんだがな。
鹿島が身体ごと、俺のほうを向く。
「私、クーデレがちょっと分かった気がします」
目を丸くした俺に、鹿島が顔をほころばせる。俺の発言のどこかに、こいつがクーデレっぽいものを感じる何かがあったんだろうか。ぜんぜん分かんねぇ。こいつの思考回路は相変わらず謎だ。
まぁでも、俺の何気ない一言で幸せそうに笑う鹿島がとてもかわいいから、別にいいか。
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update 2016/6/11