猟奇的な彼氏 3
学校の廊下を歩いていると、後ろから走る足音が近づいてくる。
「堀先輩!」
振り返ると、佐倉が息を切らしながら立っていた。
「どうした、そんな急いで」
息を整えながら、佐倉が俺を見上げる。その表情は、真剣そのものだ。
「鹿島くんのことで、お話があります」
出てきた名前に、眉を寄せる。歩き出した佐倉の後ろを、俺もついていった。
「で、どういう話をしたんですか」
眉を寄せながら、鹿島が俺を見る。
「野崎のために、もっと段階を踏んで進展してくれって言われた」
「どういうこと!?」
「まぁそれは気にすんな」
「いや、すごく気になりますけど」
「いえそれより」と鹿島が更に顔をしかめた。
「先輩、そもそも何で私の家を知ってるんですか?」
その問いに、目をしばたたかせた。
「どうしてって、婚約者なら知ってて当たり前だろ?」
「教えた記憶はありませんし、私は先輩の家を知りません」
「そうだったな。じゃあこんど連れてってやるよ」
「ぜったい行きません!」
玄関先に立ったまま、鹿島が息を吐いた。
「先輩。用がないなら帰ってもらえませんか?」
「何でだ? 婚約者同士が一緒にいるのに理由がいるのか?」
「敢えて理由を作る必要もないとは思います。でも、先輩には理由があっても家にいられたら困ります」
「何を気にしてんのか知らねぇが、盗聴器ならまだ仕掛けてねぇぞ」
「まだって、仕掛ける気あるんですか!?」
鹿島が俺の肩を掴み、押してくる。
「帰ってください」
「何でだよ。今さっき来たばかりだぞ!?」
「いいから帰ってください!」
鹿島が俺を押し出し、ドアを閉めようとする。両手でドアを掴んで開かせようとする俺に、鹿島が顔をしかめた。
「やめてください、ドア壊す気ですか!?」
「おまえが閉めようとするからだろ」
「そりゃ閉めますよ! 早く帰ってください」
「何でそんなムキになるんだ? まさか別の男を連れ込んだり」
「してません!! この間から浮気ネタ引っ張るのやめてください! そんなに私をふしだらな奴にしたいんですか!?」
鹿島がドアを引く手に力を込める。その左手の薬指に光る指輪を見ながら、俺も力を強めた。鹿島の手からドアがすり抜け、完全に開いた。
「あっ、もう! 油断した!!」
鹿島が地団駄を踏む。俺が玄関に入ってドアを閉めると、鹿島がまた溜息を吐いた。
「先輩。どうせ何を言っても家に上がるんでしょうから先に訊きますけど、私の部屋に盗聴器とか隠しカメラとか仕掛けたりしませんよね?」
「ああ。残念ながら、今その類のもんは持ってねぇからな」
「持ってたら仕掛けるんですか」
鹿島が両腕を組み、思考する。こいつはこういう姿も様になるな。
「言っときますけど、私は非常に不本意なんですからね」
「まぁ、そう照れるな」
「照れてません。先輩、何でそんなにポジティブなんですか」
「だって、おまえのツンデレは付き合い始めた時からそうだろ? いや、おまえの場合はデレツンか?」
「どっちでもいいです。そういうのじゃないですし」
眉を寄せている鹿島の横を通り過ぎる。
「邪魔するぞ」
「はいはい」
「おまえの部屋はどこだ?」
「こっちです」
鹿島の後に続いて廊下を歩き、階段を上る。鹿島が一つの扉を開け、中に入った。俺もその部屋に入り、扉を閉める。ベッドと机、本棚を含めたいくつかの棚がある部屋は飾り気がなく、シンプルだ。
「何か飲みもの持ってきましょうか」
「いや、いい。ここ座るぞ」
ベッドに腰かけた俺を見た後、鹿島が机の椅子を引いて腰を下ろす。
「おい、何でこっち座らねぇんだよ」
「何されるか分かりませんし」
「まだ最後まではやんねぇよ。こういうのは順序ってもんがあるしな」
「いきなり婚約とか言い出す人がそれ言いますか? そもそも最後まではって何ですか? 私に何かする気あるんですか!?」
「そりゃ、婚約者同士が部屋で二人きりなんだ。何もないってのもどうかと思うが」
鹿島が頭を抱える。
「あーもうやだ! 逃げ場ないし! やっぱり今からでも帰ってください!!」
「帰るわけねぇだろ」
立ち上がると、鹿島が身構えた。
「何する気ですか」
「いや、せめて近くに」
「そんなこと言って、やっぱり浮気してないか確認しようとか思ってませんよね!? 匂いとか何とかで!」
「よく分かったな」
「窓から落とされたいんですか!?」
鹿島が腰を上げて、俺の目を見つめてくる。少しずつ後ろに下がる鹿島に、俺もわずかに近づいた。
「俺が黙って落とされると思うか?」
「意地でも落とします」
「そうか。おまえの心意気、しかと受け取ったぞ」
「電波でも受信したんですか!? 先輩の世界には『窓から落としたいほど好き』って概念でもあるんですか!?」
鹿島がまた身体を固くする。
「いや、窓から落とすこと自体がどうこうってわけじゃねぇ。でも窓から落ちたら普通、痛みで動けねぇだろ? そこですかさず拘束して逃がさないようにすることで」
「真顔でなに言ってるんですか!! まさか先輩、私に対して拘束とか拉致監禁とか」
「今のところは考えてねぇ」
「今のところは!?」
眉を下げて、鹿島が息を漏らした。
「何か先輩と話してると、良識とか常識とか分からなくなってきそうです」
「そんなのどうでもよくなるくらい、俺が好きってことか」
「精神科受診したほうがいいんじゃないですか!?」
鹿島が足を前に踏み出す。
「そもそも先輩、何しに来たんですか」
「おまえがどんな生活をしてるのか盗み聞きしようと思ったんだが、ついちゃんと顔を見たくなってインターホンを」
「帰ってください!!」
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update 2016/8/4