猟奇的な彼氏 2
放課後、体育館裏に足を運ぶ。そこに辿り着くと、先に来ていた鹿島が真剣な表情を向けてきた。
「先輩」
「鹿島。早かったな」
「そうですか?」
鹿島が近づいてくる。
「ところで、話したいことって何ですか? 体育館裏に呼び出される用件というと、告白か決闘が漫画だと多いですけど」
目を見開いて、鹿島が俺を見た。
「もしかして私、ここで殺されるとか!?」
「何だおまえ。俺に殺されるようなことしたのか? まさか浮気とか」
「してませんよ! 彼氏できたばかりで浮気って、とんだ尻軽じゃないですか!」
「……おまえ、尻軽って言葉しってんのか」
「それくらい知ってます。私を何だと思ってるんですか」
溜息を吐いて、鹿島がまた俺に目を向ける。
「で、実際のとこ用件は?」
「ああ、これを渡そうと思って」
ズボンのポケットから、小箱を取り出す。その中身を見せると、鹿島が眉を寄せた。
「指輪、ですか?」
「それ以外の何に見えるんだ」
「何で、こんなもの」
「決まってるだろ。婚約指輪だ」
鹿島の眉間に、更にしわが寄る。
「先輩。私たち、まだ付き合い始めて一か月も経ってませんけど」
「時間なんて関係ねぇ。俺はおまえに告白した瞬間から、おまえ以外と結婚することなんて考えてねぇんだからな」
「すみません先輩。思いが重いです。せっかくですが、指輪はちょっと」
後ずさる鹿島の腕を掴む。
「何くだんねぇダジャレかましてんだ。いいから受け取れ」
「ダジャレのつもりじゃないですし、受け取りません」
「何でだよ。まさか本当に浮気」
「してませんってば! 百歩ゆずって指輪自体は受け取ったとしても、さすがに婚約は勘弁してください!!」
鹿島が眉をつり上げて俺を見た。
「大体、恋人へのプレゼントを学校の体育館裏で渡すってなに考えてるんですか!」
「俺だって本当なら、どっちかの家で渡してぇと思ってんだよ。でもおまえんちには上げてもらえねぇし」
「部屋を探られたり、盗聴器でも仕掛けられたりしたらたまったもんじゃないですからね」
「俺んちにも来てくれねぇし」
「先輩の家に上がるなんて、自分から袋のねずみになりに行くようなものじゃないですか」
「とにかくぜったい嫌です!」と首を横に振る鹿島に、肩をすくめる。
「しかし盗聴器か。その発想はなかったけど、それもいいな」
「うわっ、墓穴ほった!」
「まぁでも、おまえの気持ちは分かった。確かにまだ付き合い始めたばかりだし、家に上がるのはこれからでもいいよな」
鹿島が眉をひそめた。
「いえ、早いっていうのは婚約に対してであって、家に行くのは」
「ただ、まだ互いの家に行ってはいなくても、婚約はしておいていいと思うが」
「意味が分かりません。人の話を聞いてください」
掴んだままだった腕を引っ張り、鹿島を引き寄せる。そいつの手に小箱を載せて、目を見つめた。
「いいから受け取れ。そして着けろ」
「受け取るのはいいんですけど、婚約はひとまず保留でいいですか? もっとお互いのことを知ってからのほうがいいと思いますし、やっぱり順番って大事ですし」
「駄目だ。前も話したけど、恋人同士って不安定だしな」
「婚約者って関係が安定してるとも思えませんけど」
「恋人同士よりは結婚を前提にしてる分、ましだと思うぞ」
鹿島が眉を寄せて、小箱に視線を注ぐ。しばらく小箱を見つめた後、鹿島が溜息を吐いた。
「分かりました。もう、先輩相手になに言っても無駄でしょうし」
「そうか。これで俺たちは晴れて婚約者だな。もう何があっても絶対におまえを離さねぇし、誰にもおまえを渡したりしねぇ」
「いや、さじ投げられてるだけだって気づいてください。何でそう会話が成立しないんですか? サイコパスなんですか?」
鹿島が再び息を吐く。
「だいたい先輩、婚約しなくても私を離す気ないんでしょう?」
「当たり前だ」
「今まで好きになった子に対しても、こういう感じだったんですか? 引かれたりしなかったんですか?」
「なに言ってんだ。殺してでも引き留めたいって思ったのは、おまえが初めてだよ。第一、相手を殺して自分も死ぬなんて恋愛する度に言ってたら、命がいくつあっても足りねぇだろ」
「先輩にそんな真っ当な指摘をされるなんて癪です」
鹿島が小箱を握り、俺を見た。
「でも、そっか。私が初めて」
顎に手を当てて、鹿島が思考を始める。
「それだけ愛されてるってことだって考えると、悪くないかも」
「だろ?」
「これがストックホルム症候群なんでしょうか」
「人を犯罪者みたいに言うんじゃねぇ」
鹿島が眉尻を上げた。
「自分の言動を思い返してから言ってください! だいぶ犯罪チックですよ!!」
「何でだ? 心から好きになった相手には、そう思うもんじゃねぇのか?」
「ふつう思いませんよ!! どんだけ脳が空想の世界に浸ってるんですか!? 周りの恋愛話を聞いて、普通のカップルがどんな感じか学んできてください!」
息を切らせながら、鹿島が小箱をスカートのポケットにしまった。
「おい、何でいま着けねぇんだ?」
「どこで着けようが、私の勝手じゃないですか」
「俺はいま着けてほしいんだよ。貸せ、俺が着けてやるから」
鹿島のポケットに手を突っ込んで、小箱を取り出す。指輪を出すと、鹿島の左手首を掴んだ。
「ま、待ってください。何でそこまで今にこだわるんですか!」
「そりゃ、手枷は早めに嵌めとくに限るからな」
「手枷って何ですか!? ちょ、ちょっと待ってください力つよいです。手が千切れる!!」
「おまえが抵抗しなけりゃすぐ済むんだよ。いいからじっとしてろ」
鹿島の身体から力が抜ける。左手の薬指に指輪を嵌めてやると、鹿島が顔をしかめながらそれを見た。
「わー、サイズぴったり」
飾りのない銀の指輪が、光を反射して光る。
「まだ高校生だからな、安もんだが」
「それより、何で私の指のサイズなんて知って……いや、やっぱり言わなくていいです」
鹿島がまた溜息を零した。
「おまえ最近、ほんと溜息が多いよな」
「百パーセント先輩のせいですけどね」
「おまえみたいなイケメンが悩ましげな溜息を吐いてるのって、絵になるよな」
「悩ましげですか。そうですね、確かに悩ましいです」
硬い表情で、鹿島が指輪を見つめる。
「でも先輩が、あの堀先輩がここまで私を好きでいてくれてるんだもんなぁ」
「嬉しいか?」
「答えたくありません」
指輪をしばらく見つめた後、鹿島が頭を掻きむしった。
「あー、でもやっぱり認めたくない!! 認めたら人間として何か終わりそう!」
「何の話だ?」
「先輩には関係、あるけど話しても無駄なので言いません!」
「何でだよ。俺たち婚約者だろ? 悩みがあるなら相談しろよ」
「悩みの元の張本人が言わないでください! 既に婚約者呼ばわりだし! もう、先輩にはぜったい話しません!」
鹿島の肩を掴み、視線を合わせる。
「何でだよ。いいことも悪いことも分かち合ってこその婚約者じゃねぇのか? そんなに俺が信用できねぇのか? もしかして、やっぱり浮気を」
「もうそのネタはいいですから!!」
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update 2016/4/5