猟奇的な彼氏
コミカルなヤンデレを目指して、深夜のテンションで書いたものです。
こんなタイトルをつけてますが、猟奇的な彼女の内容は知りません。
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学校に行って授業を受けて、部活動をして家に帰る。そんな日常の中で、そうそう変化なんて起きないと思っていた。もちろん文化祭が終わって部活を引退すれば、自分も周りも変わらざるをえないだろう。だがそれまでは、今まで通りの日常が続くだろう。その光景を見るまでは、そう思っていた。
放課後の廊下を歩きながら、中庭へ目を向ける。そこに鹿島の姿を見つけて、声をかけようとした。しかしよく見ると、鹿島の前に一人の男子生徒がいる。見慣れない奴だけど、二年生だろうか。
真っ赤な顔の男子生徒が、意を決したように鹿島を見据える。
「す、好きだ!」
鹿島が目を見張った後、眉を下げて笑った。
「や、やだなぁ。冗談でしょ? 何かの罰ゲームとか」
「違う。鹿島が好きなんだ」
鹿島が呆気にとられた顔で、男子生徒を見る。あいつが男と付き合うとこなんて想像できないし、あいつ自身そういうことを意識してるように見えないし、たぶん断るんだろうな。そう思いながら見ていた俺の視線の先で、鹿島が口を開いた。
「少し、考えさせて」
鹿島はそれだけ言うと、男子生徒に背中を向けて去っていく。何で断らないんだ? そいつのこと、気になるのか?
急いで下駄箱に向かい、靴を履き替える。校門に向かって走ると、鹿島の後ろ姿が見えた。
「鹿島!」
振り返った鹿島が、いつものように笑う。
「先輩! 今から帰るところですか?」
何だよその顔。
「あ、ああ」
「じゃあ一緒に帰りませんか?」
「別にいいけど」
「やったー!」
嬉しそうに鹿島が歩き出す。横に並んで足を進めながら、鹿島を見上げた。その横顔からは、さっきの出来事なんて連想できない。
「そうだ先輩。パフェでも食べに行きませんか?」
「行かねぇ」
「えーっ」
鹿島が頬を膨らませる。何でこいつは、こんなに、
「何でいつも通りなんだよ、おまえ」
鹿島の足が止まる。
「さっき告白されてただろ?」
俺に目を向けてきた鹿島が、照れくさそうに笑った。
「やだなぁ、見てたんですか? 恥ずかしいなぁ」
恥ずかしいなぁ、じゃねぇよ。何だよ、その満更じゃねぇって顔。ふざけんな。あんな男に渡してたまるか。こいつはみんなの王子様で、俺の――
「断れよ」
鹿島が目を丸くする。
「えっ?」
「告白を断れって言ってんだ。あんなどこの誰かも分かんねぇような奴」
「えっいや、私のクラスメイトですけど」
「そんなの知るか。あんな奴に、おまえを取られてたまるもんか」
何で今まで気づかなかったんだ。俺は、こいつに惚れてるんだ。誰にも渡したくない。こいつが誰かのものになるくらいなら、いっそのこと。
「おまえが告白を断らねぇって言うなら、おまえを殺して俺も死ぬ」
鹿島が大口を開けて絶句した。のん気な表情がかわいくて、腹が立つ。
「おまえが他の男のもんになるくらいなら、そのほうが」
「いやいやいや。待ってください。何でそうなるんですか!? そもそも私、告白を受けるなんて言ってないじゃないですか」
「じゃあ断るんだな!?」
鹿島の腕を掴んで顔を寄せると、目を逸らされた。
「せ、先輩。とりあえず落ち着いてください!」
手を振りほどかれ、肩を押される。俺から距離を取った鹿島が、小さく息を吐いた。
「わ、私、告白を断らないと死ぬんですか?」
「安心しろ。俺も一緒に逝ってやる」
「何ひとつ安心できませんよ!!」
鹿島が困ったように俺を見る。
「何なんですかこの急な昼ドラ展開! そもそも先輩は、何で私が他の男子と付き合ったら嫌なんですか!? 私のこと、好きなんですか?」
「そうだ」
「だったら普通にそう言ってくださいよ! 堀先輩に告白されて、私が断るわけないじゃないですか!」
今度は俺が目を見開いた。一歩ちかづくと、鹿島が肩を震わせる。
「じゃあ、俺と付き合うんだな?」
「……はい」
「あいつの告白は断るんだな?」
「断りますよ」
鹿島と距離を詰めると、眉尻を下げながら見下ろされた。
「だからその、殺すとか死ぬとかやめてください。私これからも先輩に演劇を続けてほしいし、自分の目で先輩の演技を見たいです」
「分かった」
鹿島が安心したように息を漏らす。そいつの頬を撫でると、不思議そうに見つめられた。
「じゃあこれから俺たちは、彼氏彼女ってことだよな」
「そうなりますね」
「これでひとまず、おまえは俺のもんってことか。でも恋人同士って関係も不安定だよな。いつか別れるかもしんねぇし」
「そう、ですね」
鹿島が眉をひそめる。
「もし私が、別れ話を切り出したらどうしますか?」
「おまえを殺して俺も死ぬ」
「やっぱりそうなるんですね」
鹿島の頬に添えたままだった手が、握られた。
「先輩って恋愛方面にはそんなに、その、過激なんですね」
「そうか? 物語ならともかく、現実の恋愛なんてそんなもんじゃねぇのか」
「初めて聞きましたよそんな恋愛観」
鹿島がまた溜息を吐いて、俺の手を自分の頬から外す。
「何か私、とんだ人に捕まっちゃったなぁ」
両手で俺の手を握って、鹿島が微笑みかけてきた。
「でも先輩とならそれでもいいかなって思うくらいには、私もおかしくなってるみたいです」
「待て。何で俺もおかしいみたいな言い方になってるんだ」
「おかしくも追い詰められてもいない人が、好きな相手と無理心中しようとするわけないじゃないですか!」
「なに言ってんだ。惚れた相手と離れ離れになったりするくらいなら、一緒に死んで二人の関係を永遠にしようって考えるのは正常だろ?」
「異常ですよ!! 台本の読みすぎで現実と空想の区別がつかなくなってるんじゃないですか!?」
鹿島が、何度目か分からない溜息を零す。
「溜息ばかり吐いてると、幸せが逃げるぞ」
「誰のせいですか!」
「まぁとにかく、そういうことだから。これからよろしくな、鹿島」
「……はぁ」
疲れた顔で、鹿島が空を見上げた。
「夢だったらいいのになぁ」
「確かに、夢じゃないかと思うくらい現実感がねぇよな。でもおまえをモノにできて俺は嬉しいぞ」
「先輩、本当に脳が空想の世界に旅立ってるんじゃないですか?」
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update 2016/3/22