叶えたいこと | Of Course!!

叶えたいこと

黒猫のウィズ内イベントストーリーのパロです。

 

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 八百万の神々が存在する世界。下界に暮らす人間たちに神々の姿は見えないが、今日も神々は人間たちの願いを叶えている。その神々にも、それぞれに悩みがあった。

「はぁ」

 一人の神が溜息を吐く。彼は芝居の神、マサユキ・ホリだ。だいぶ前から、彼はあることで悩んでいた。

「このままじゃ『ご利益ぽいんと』が増えねぇよなぁ」

 自分の願いを叶えられない神がそれを叶える方法は、「喧嘩神輿とうなめんと」に出場して優勝することだけだ。だが出場するためには、人々の願いを叶えて感謝されることで得られる「ご利益ぽいんと」が八百万以上ないといけない。だからどの神も「ご利益ぽいんと」は欲しい。だが、

「カシマを何とかしねぇと、あいつにどんどん『ぽいんと』を持ってかれるよなぁ」

 芸事の神、ユウ・カシマ。彼女の存在がマサユキの悩みの種だった。彼女は芸事全般に関わっているため、芝居についての願い事も彼女へ行う者が多いのだ。マサユキとしては、ただでさえ社に来る者の多い彼女にこれ以上、「ご利益ぽいんと」を持っていかれたくない。

「どうしたもんかな」

 マサユキがまた息を零した。だが、ここで考え込んでいても仕方がない。意を決したマサユキは、自らの社を後にして歩き始めた。しばらく進んだところで、マサユキのものより豪奢な社に辿り着く。そこに足を踏み入れたマサユキは、ぶしつけにも社の中に上がりこんだ。響いてきた三味線の音に惹かれるように、社の中を歩いていく。ふすまを開けると、畳の上に座って三味線を弾くユウがいた。

「あれ、ホリさん。遊びに来たんですか?」

「そんなんじゃねぇよ」

「そうなんですか? まぁゆっくりしてってください。あっ、おまんじゅう食べますか?」

「いらねぇ」

 ユウの前に腰を下ろす。三味線を畳の上に置き、ユウが向き合ってきた。

「何のご用ですか?」

「おまえに言っても仕方ねぇことかもしんねぇけどな。しょうじき俺は、商売あがったりだ。役者なんかがみんな、おまえのほうに来ちまうからな」

「そうですよね。お芝居のことだったら私よりホリさんのほうがいいと思いますけど、ホリさんの社を案内しようにも、下界の人に私たちの姿は見えませんし。私も、どうしたものかなって思ってるんですよ。別に私、『ご利益ぽいんと』も必要じゃないですしね」

 マサユキが目を丸くする。

「そうなのか?」

「はい。特に叶えたい願いもないですし、喧嘩神輿に出るつもりはないです。だからホリさんに叶えたい願いがあるなら、いくらでもうちのお客さん持ってってください」

「願いなぁ」

 そういえば自分に、「喧嘩神輿とうなめんと」に出てでも叶えたい願いはあるだろうか。思えば社に人が来ないのを嘆くばかりで、肝心のそこがおろそかになっていた。

 ユウが小さく笑う。

「まぁ喧嘩神輿はまだ先ですし、今から考えても間に合うでしょうね。お茶いれましょうか?」

「いや、いい」

 自分の願いは何だろう。そう考えながら、目の前のユウを見る。整った顔立ちに、着物の上からでも分かる細くしなやかな身体。もし下界の人間が彼女の姿を見ることができたら、今よりずっと参拝客が増えることだろう。

「私の顔に何かついてますか?」

 首を傾げるユウの表情は、とてもあどけない。こんな顔を見せられたら、誰だって同じ答えに辿り着くはずだ。

「おまえが欲しい」

 ユウが何度もまばたきをする。そのまま見つめていると、彼女が嬉しそうに笑った。

「やだなぁ、ホリさん。それだったら、喧嘩神輿に出なくても叶いますよ」

 ユウが身を乗り出す。唇を重ねられ、マサユキが目を見張った。すぐに離れた彼女が、また笑う。

「好きです」

 彼女の両手が、マサユキの右手を握った。

「そうだホリさん。喧嘩神輿って、何人かで一緒に出るのもありなんですよね。もし出るんだったら、声をかけてください。もしホリさんだけじゃ足りなくても、私の『ご利益ぽいんと』を合わせればきっと大丈夫ですよ」

「……いや」

 マサユキの左手が、ユウの右手に添えられる。

「別にいいわ」

 彼女に軽く口付けすると、幸せそうな笑みを向けられる。それに笑い返して、細い身体を抱き締めた。

 

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update 2016/2/15