心動かす黒
みこりんと女の子の真由と野崎くんという組み合わせの夢を見たので、それを元に書いたものです。夢の内容は一部分だけだったので、前後を補完しています。
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ここのところ新作ゲームをプレイするのに忙しかったけど、いくつかエンディングも見たことだし、そろそろ野崎のところに顔を出そう。そう思い、マンションのエレベーターに乗る。エレベーターを降りて野崎の部屋に行くと、鍵が開いていた。
「野崎ー、いるのか? 入るぞー」
ドアを開けて中に足を踏み入れ、靴を脱ぐ。あれ、何か小さいローファーがある。佐倉でも来てるのか? まぁいいか。そんなことを考えながら廊下を歩いていると、かすかに会話が聞こえてきた。
「兄さん、本当に寝たほうが」
「大丈夫だ、これくらい」
リビングに入ると、野崎とその妹の真由がこっちを向く。
「実琴さん、こんにちは」
「あっ、あのローファーおまえのか」
真由が頷いた。野崎を見ると、明らかにクマができている。
「野崎おまえ、どんだけ寝てねぇんだ」
「何、気にするな。手伝いに来てくれたのか?」
「ああ、まぁ。あとどれくらいなんだ?」
机の上にある原稿を見る。どうやら人物と背景とベタが終わって、あとは効果やトーンくらいらしい。
原稿を机に置いて、ペンとインクを手に取り腰を下ろす。そんな俺を見て、真由が野崎に向き直った。
「兄さん。実琴さんも来てくれたんだし、少し寝たら?」
「いやでも、締め切り近いのに俺が休むなんて」
「締め切りが近いからこそだよ」
眉間にしわを寄せながら、野崎が身体を揺らす。今にも寝落ちてその場に倒れそうだ。
「真由の言う通りだぞ。少しは休め」
大体、野崎だって真由の面倒くさがりっぷりは分かってるはずだ。その真由がこれだけ必死におまえを寝かそうとしてるんだから、相当だぞ。
野崎が顔を上げ、首を縦に振る。
「分かった、寝よう。ただ、条件がある」
「条件?」
「ここにいる三人で並んで寝たい。もちろん、俺が寝た後はそれぞれで行動してもらって構わない」
「はぁっ!? 何でそうなるんだよ!?」
野崎が鋭い目で俺たちを見た。
「今後の参考として、二人の男に挟まれた女子の意見を聞いてみたくてな」
「物理的に挟んでどうするんだよ!? 大体、おまえと真由は兄妹なんだし、一緒に寝たところで何も起きねぇだろ!?」
むしろ、何か起きたほうがやばい。それでも野崎は、表情を変えずこっちを見るだけだ。
「確かに俺と真由は双子の兄妹だが、あくまでネタ集めの一環だし」
「待て、いつ双子になった!? 歳ちがうだろ!? お前の脳内どうなってんだ!」
これはかなりやばい。一刻も早く寝かさねぇと。でも、ただじゃ寝そうにねぇ。真由と見ると、小さく頷いた。
「分かった、付き合ってやる。だからとりあえず寝ろ」
野崎の表情が明るくなる。真由と俺の肩を叩いて、何度も頭を縦に振った。
「そうか、協力してくれるか。ぜひ後で感想を聞かせてくれ。できれば真由だけでなく、御子柴にも聞きたい」
「……ああ、分かった」
もう、どうにでもなれ。そんな気持ちで、野崎や真由と共に寝室へ向かう。野崎がいちばん奥に、真由がその横に寝て、真由の隣に俺が横たわった。
「野崎が寝たら、さっさと抜け出すぞ」
真由の耳元で囁くと、小さく頷かれる。
「それにしても助かった。さすがに、佐倉には頼みづらいしな」
「……まぁな」
確かに、それはそれで気まずい。つーかその場合、俺が邪魔者だろ。
「しかし、『恋しよっ♡』でこういうシチュエーションを入れるには、どうすればいいだろうか。難しいな。それなら読み切りのネタにでもしたほうが」
「いいから寝ろ」
野崎が残念そうな表情で目を閉じる。そんな野崎のほうを向く真由が、どんな顔をしているのかは分からない。ただ、シャンプーのものなのか、いい匂いが鼻をくすぐった。目の前の艶やかな黒髪を触りそうになって、慌てて手を引っ込める。何やってんだ俺は。このシチュエーションで頭がいかれてるのは、もしかして俺のほうなのか?
真由の向こう側から、寝息が聞こえ始める。ベッドを抜け出すと真由も出てきて、二人で音を立てないように部屋を移動した。作業机の前に座り、置きっぱなしだった原稿と向き合う。
「実琴さん、ありがとうございます」
俺の横に正座した真由が、無表情で見つめてきた。
「別に、大したことはしてねぇけど。それにしても、びっくりしたぜ。おまえがあそこまで野崎を寝かせようとがんばるなんてな」
「この場で寝られたほうが面倒なので。いくら私が柔道部でも、あれだけ体格の違う兄さんを運ぶのは大変ですし」
「言えてるな」
声を立てて笑い、真由を見る。
「そういやおまえ、さっきの嫌じゃなかったか?」
「さっきの?」
「俺と野崎に挟まれるの。おまえだって年頃なんだから、いくら実の兄でも一緒に寝るなんて複雑だろ。おまけに、兄弟でも彼氏でもねぇ奴にまで隣に寝られて」
真由が何度もまばたきした。
「嫌じゃないですよ」
今度は俺が同じ反応をする。そんな俺を前に立ち上がり、真由が鞄を持って歩き出した。
「兄さんも寝たので帰ります」
「はぁ!? 何だよそれ。意味深なこと言うだけ言って!」
俺も腰を上げ、真由を追う。
「今のどういう意味か説明しろよ!」
「あまり大声を出すと兄さんが起きますよ」
背中を向けたまま、真由が靴を履く。
「ずりぃぞ、そういうの。ちゃんと言えよ」
「面倒くらいから嫌です」
「こんなとこで面倒くさがり発動すんな」
真由が少しだけ振り返った。その瞳は相変わらず感情が見えない。
「それでは実琴さん、また今度」
また真由が顔を逸らす。何だよ、こんなとこで行かせてたまるか。
ドアを開きかけた真由の腕を掴む。耳元に唇を寄せて告げた言葉に、黒い瞳がわずかに揺れたような気がした。
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update 2015/12/1