そんな彼らの日々
堀鹿の互いに対する態度が逆だったらどうなるのだろう、と書いてみたものです。なんかいろいろとコレジャナイ。
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放課後になり、鹿島遊は廊下を歩いていた。すれ違う女の子たちが声をかけてくるのに応じながら、少しずつ足を進めていく。そんな彼女の背中に、自分の名前を呼ぶ大声が届く。振り返ると、演劇部部長の堀政行が走ってきた。
「鹿島、おまえ、部活に行くところか?」
「はい」
「一緒に行くか?」
「そうですね。目的地は一緒ですし」
並んで歩き出すと、堀が何か言いたげに鹿島を窺ってくる。鹿島はそれに気づきながらも、そのまま進み続けた。
「なぁ、鹿島」
「何ですか?」
「こないだ、学校の近くにカフェができただろ」
「らしいですね。お姫さま達から聞いて、気になってるんですよね」
「きょう部活が終わってからじゃ時間が遅いし、明日ぐらいにでも行かねぇか?」
彼を横目で見ながら、「何人で?」と言葉を投げる。
「俺とおまえの二人だ。何なら奢ってやるから」
「先輩に奢ってもらうほど困ってませんよ。でも別に、二人で行くのは構わないです」
「よっしゃ!」
ガッツポーズをする堀を訝しく思いながら、鹿島が肩をすくめた。鹿島にとって堀は尊敬する先輩だし、彼と出かけるのはやぶさかではない。だが、彼は何がそんなに嬉しいのだろうか。
「ぜってー忘れるなよ? 女子と一緒に帰ったりするなよ?」
「分かってますよ」
元々は自分が彼を追って同じ高校に入学したのに、いつの間にこういうことになったのだろうか。何度も考えたことをまた思考しながら、鹿島が天井を見上げた。
翌日の放課後、二人は学校付近のカフェにいた。向かい合って座り、メニュー表を見つめる。
「鹿島、このパフェなんてどうだ」
堀がメニュー表を指差す。そこに載っているのは、いちごがふんだんに使われたパフェだった。トッピングは生のいちごにいちごアイス、そこにいちごソースがかかっている徹底ぶりだ。
「確かにおいしそうですね。私これにしようかなぁ。先輩はどうします?」
「そうだな。俺はこれにするか」
堀が指したのは、チョコレートアイスとバナナがトッピングされ、チョコレートソースがかけられているチョコバナナパフェだ。
「これもおいしそうですね」
「おまえならそう言うと思った。せっかくだから、違うのを頼んで分け合うのもいいかと思ってな」
「ああ、いいんじゃないですか」
鹿島の生返事を物ともせず、堀は嬉しそうに店員を呼び止め、パフェを注文する。この先輩は黙っているか演技をしていれば格好いいと鹿島は感じているのだが、普段の彼を見ているとそれを告げる気にならない。構われるのが嫌なわけではないが、なぜ彼がこんなに鹿島を気にかけるのか、彼女には分からなかった。
「そうだ鹿島。おまえ、これ興味あるか?」
堀が鞄を探り、紙切れを差し出してくる。よく見ると、映画のチケットだ。書かれているタイトルは、いま話題のラブストーリーのものだ。
「まぁ、人並みには」
「そうか。ちょうどチケットが二枚あるし、一緒に行かねぇか?」
なぜ都合よく二枚あるのだろうか。疑問に思ったが、鹿島は考えるのをやめた。
「別に構いませんよ」
「よし! じゃあいつ行く? 次の週末か?」
「それでいいです。土曜でも日曜でも。あっでも、日曜は家族みんな出かけるから、私も家を空けたら誰もいなくなっちゃうか」
「じゃあ日曜にするか」
「何でですか」
鹿島が溜息を吐く。
「おまえんち見てみてぇから。さすがに家族がいるところに邪魔するのは悪いし」
「私んちなんて見てどうするんですか」
「別に。ただ見てぇだけだ」
彼は何を言っているのだろうか。自分たちが、仮にも年頃の男女であることをもう少し意識してほしいものだ。
「嫌です」
「何でだ。映画を観た後は、じっくり感想を語り合いたいもんだろ。家でゆっくりと語り明かそうぜ」
「感想を語るのは、喫茶店でもファストフードでもできるじゃないですか。何で私んちでやらないといけないんですか」
「俺がおまえんちに行きてぇから」
「ちょっとなに言ってるのか分からないです」
自分みたいに背が高く胸もない女が相手じゃ、間違いなど起きるはずがない。そう考えようとしても、万が一のことを想像してしまいそうだ。
「いいじゃねぇか、減るもんじゃねぇだろ」
「確かに家は減りませんけど、そういう問題じゃないです」
「いちばん尊敬してる先輩が家に遊びに行きてぇって言ってんだ。何か文句あるのか?」
「何ですかその自信」
否定もできないだけに、鹿島は頭を抱えるしかなかった。彼が引退するまでの辛抱だと自分に言い聞かせていると、パフェが運ばれてくる。実物は、写真よりもずっとおいしそうだ。
「来ましたね。いただきまーす」
両手を合わせて言うと、鹿島がスプーンでいちごと生クリームを掬い口に入れる。その甘さに顔をほころばせていると、堀の視線に気がついた。
「先輩、食べないんですか? アイス溶けますよ」
「ああ、食うけど。おまえうまそうに食うよなぁ。見てて飽きねぇ」
「それは、ありがとうございます」
食べているところを見つめられるのは気恥ずかしいが、パフェはおいしい。またひとくち食べると、堀が自分のパフェを差し出してきた。
「これも食え」
「ありがとうございます。でも先輩が頼んだんだから、先輩が先に食べてくださいよ」
「そうか」
堀がチョコアイスを口に含む。アイスを飲み込むと、またパフェを差し出してきた。
「ほら食え」
「あ、りがとうございます」
顔が引きつりそうになりながらも、鹿島が堀のパフェを掬い、食べた。
「これもおいしいですね! やっぱり甘いものっていいなぁ」
鹿島を見ながら、堀が満足そうに何度も頷く。首を傾げながら、鹿島がチョコバナナパフェを堀のほうへ戻した。
「もういいのか? もっと食っていいんだぞ」
「いいです。あとは先輩が食べてください」
「そうか。おまえのも一口もらっていいか?」
「どうぞ」
鹿島がいちごパフェを堀側へ寄せる。堀もひとくち食べ、パフェを鹿島へ返してきた。
「もういいんですか?」
「ああ。おまえが食うぶん減るし」
「そうですか」
鹿島は彼からパフェを受け取り、いちごアイスをスプーンで掬って口に運ぶ。程よい甘酸っぱさが口の中に広がり、自然と口角が上がった。
「で、鹿島。映画の件なんだが」
「え? ああ、別に日程は次の日曜でいいですよ。でも私んちはなしです」
「はぁ!? 何でだよ」
「何でも何も、普通に考えてなしでしょう! 付き合ってもない女子の家に遊びに行こうなんて、なに考えてるんですか!!」
さすがに付き合いきれない。眉を寄せながら、鹿島がパフェを食べ進めた。
「付き合ってたらいいのか?」
「まぁ、それなら家に遊びに行くのもありなんじゃないですか?」
「じゃあ付き合うか?」
鹿島の手が止まる。正面を見ると、堀の真剣な目とかち合った。
「……さすがに冗談きついですよ、先輩」
「おまえが家に上げてくれねぇから」
「それくらいで付き合うとか言い出さないでください。そういうのはもっとじっくり考えるべきです」
「何でだよ! 俺はおまえのいちばん尊敬する先輩だろ!? なら家に上げてくれたり、付き合ってくれてもいいんじゃねぇのか!?」
「それとこれとは別問題です! これ以上その話したら映画も行きませんからね!?」
怒り顔でパフェを頬張る鹿島に、立ち上がった堀が縋り付いてくる。
「何でそんなこと言うんだ鹿島! おまえの一番は俺だろ!?」
「誤解を招くこと言わないでください! 抱きつかないでください! うっとうしいです!!」
周りの客からの視線が突き刺さる。少し泣きそうな鹿島に構うことなく、堀が腕に力を込めた。
「鹿島、頼むから」
見上げてくる堀の表情は必死で、鹿島は眉尻を下げながら彼を見た。高校を決めるきっかけになる程度には敬愛している先輩の、こんな姿は見ていられない。
「分かりました。映画は行きます。家にも来ていいですから、付き合うとかそういうのだけはもっと慎重に考えましょう」
「本当か!?」
堀が瞳を輝かせながら立ち上がった。笑顔で鹿島の手を握り、見つめてくる。
「おまえならそう言ってくれると思ったんだ。日曜はよろしくな、鹿島。いい一日にしようぜ」
「……あ、はい」
小さく答えた鹿島に、堀は嬉しそうな顔を見せ席に座り直す。何だかんだ言いつつも満更でないと思っている自分に気づかないふりをして、鹿島は自分のパフェをまたひとくち食べた。アイスは、少し溶けかかっていた。
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update 2015/10/19