彼女の話
鹿島くんのことが好きな千代ちゃんと結月の話です。
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時々、ずるいなって思うことがある。
「堀ちゃん先輩が最近、なんど電話しても出てくれないんだけど何でかな」
鹿島くんが深刻な表情で呟く。
「特に怒らせるようなことした記憶もないし、部活の時は普通なんだよ。なのに、夜に電話すると全然でてくれなくて」
溜息を吐いて、鹿島くんが両手で顔を覆った。
「前に御子柴から聞いた、押して押して押しまくるっていうのは、あまり効果なかったみたいだし。何でかなー、結構いい案だと思ったのに」
それってもしかして、鹿島くんが鬱陶しいって堀先輩が言ってた頃のことかな。あれってみこりんの提案だったんだ。
「千代ちゃん。私どうすればいいのかな」
「えっ? うーん、そうだね」
原因は思い当たるんだけど、鹿島くんには言わない方がいいみたいだし、どう答えればいいんだろう。
「た、たまたま間が悪かっただけじゃないかな。少し時間を替えるとか、しばらく電話はやめて様子を見てみるとかしてみたら?」
「間が悪い、か。確かにそれはありそうだね。千代ちゃんの言う通りにしてみるよ。ありがとう!」
「頑張ってね、鹿島くん」
満面の笑みを浮かべる鹿島くんに微笑み返す。鹿島くんが腕時計を見て、目を見開いた。
「あっ、もうこんな時間!? そろそろ戻らないと。じゃあね、千代ちゃん。本当にありがとう」
「ううん、大したこと言えなくてごめんね。じゃあね鹿島くん」
手を振り合うと、鹿島くんが背中を向けて早足で去っていく。小さくなっていく姿を見送って、溜息を吐いた。
鹿島くんは学園の王子様と呼ばれるだけあってかっこいい。でも仲良くなってみると、それ以上にかわいい女の子だと感じることが多い。そう思うのは、鹿島くんが私に対して、他の女の子と話す時みたいに気障な言動をしないってこともあるんだろうな。けどやっぱり、鹿島くんの堀先輩に対する懐きっぷりを知ってるっていうのも大きいのかもしれない。
「どうした千代。暗い顔で考え込んで」
「……結月。うんちょっとね、鹿島くんのことで」
「鹿島のこと? あいつがどうしたんだ」
「堀先輩が関わるとすごくかわいなって思って」
結月が首を傾げる。
「うーん。何つーかまぁ、犬っぽいよな」
「うん。でも鹿島くんって誰にでも気さくだけど、鹿島くんを悩ませたりさせられるのって先輩だけだよね。何か羨ましいな」
「羨ましいって、どっちが? 堀ちゃん先輩?」
頷くと、結月が肩をすくめた。
「結月も思わない? 鹿島くんのかわいい部分を引き出すことのできる堀先輩ってずるいって」
「考えたことねぇな。いやでも、堀ちゃん先輩がいなかったら、鹿島が私に弟子入りすることもなかったんだよな」
結月が腕を組み、目を瞑る。しばらく何かを考えた後、目を開けた。
「うん、ずるいな。でも逆に、堀ちゃん先輩がいたから鹿島と仲良くなれたって思うと、感謝しないこともない」
「そうだね。確かに、鹿島くんも音痴を気にしてはいたみたいだけど、直そうってことになったのは先輩からミュージカルの話を持ちかけられたからだし」
本当に、鹿島くんのやること成すことってほとんど、堀先輩が理由なんだな。
「やっぱり堀先輩、ずるい」
「だよな。一度くらい、私達が鹿島を振り回してみたいもんだ」
二人で頷き合っていると、授業開始を告げるチャイムが鳴る。慌てて席に着き、溜息を吐いた。
さて、どうやったら鹿島くんのかわいいところを引き出せるだろうか。堀先輩の存在に頼らずにって考えると難しいな。そうだ、今度カフェに誘ってみよう。鹿島くん、甘いもの好きだもんね。
そう決心するのと、先生が教室に入ってきたのは同時だった。
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update 2015/2/18