少女は青い鳥を知っていた | Of Course!!

少女は青い鳥を知っていた

青い鳥ネタを書きたかっただけのものです。

この話を書くのに青い鳥のことをググって初めて、本来は童話じゃないってことを知りました。

 

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 幸せの青い鳥を探してほしい。そう言われた兄妹が青い鳥を求めて旅に出る、有名な童話。この話は長い間、私にとってはしっくりこないものだった。そもそも、幸せを自分から探しに行くなんて発想がなかったからだ。

「だって普通にしててもお姫様たちが周りにいるし、それでじゅうぶん楽しいんですから。わざわざ長い旅をしてまで、あるかも分からない幸福を探すなんて、面倒じゃないですか。先輩はそう思いませんか?」

 隣を歩く堀先輩を見ると、眉をひそめられた。

「おまえくらい何でもできて、努力する必要なんてなかったら、そんな考えにもなるんだろうな。俺には分かんねぇ」

「……そうですか」

 確かに私は、そういうのとはあまり縁がなかったかもしれない。

「大体、何でいきなりそんな話を振ってきたんだ? 今度の劇とは関係ねぇし」

「そうですね、何でですかね。よく分からないけど、急にその話を思い出して」

「何だそれ」

 堀先輩が呆れ顔で溜息を吐く。

「そもそも、本来の『青い鳥』は童話じゃねぇぞ」

「知ってます。戯曲ですよね。青い鳥を見つけた後のことも、今は分かってますよ」

 前は旅に出る兄妹を不思議に思い、幸せの青い鳥は近くにいたという終わりに納得していた。だけどその続きを知って、衝撃を受けた。

「本当の結末って、手近な幸せで満足することをよしとしないような、そんな締めじゃないですか。初めてそれを見た時に、結局この話は私とは反対のものなんだって改めて思ったんです。程々に人生を楽しんでる自分を否定されてるような」

「何だおまえ、『青い鳥』にかこつけて自分のことを話したかっただけか」

 無感情な顔で先輩が呟く。

「でもまぁ、おまえもおまえで思うところはあるんだろうし、聞くだけでいいなら付き合うぞ」

「えっ!? いや、別にそういうつもりじゃなかったんですけどね。……すみません、何か変なこと言っちゃって。ぜんぜん気にしないでください」

 「私なら大丈夫ですから! この通り!」と笑ってみせる。堀先輩の目が、そんな私を見つめてきた。隠してないで全て話せと、無言で責め立てられてるみたいだ。でも、いま考えていることなんて先輩に言えるわけない。

 私の足が止まる。先輩も立ち止まり、私を見続けた。らしくない話をしたとは確かに思うけど、だからってそんなに気にしてくれなくていいのにな。結末が分かりきっているんだから、夢を見させないでほしい。

 堀先輩から目を逸らすように俯く。先輩は今、どんな表情をしてるんだろう。

「あの、本当に、何でもないんです。わけの分からないことを言ってすみませんでした」

 日が落ちて薄暗い中、街灯に照らされた先輩のシャツとネクタイが視界に入る。見慣れた水色と青が目に眩しい。

「何でもないようには見えねぇけど、まぁ、おまえが話す気ないなら仕方ないか。さっさと帰るぞ、鹿島」

 歩き出した堀先輩の背中を、目で追う。先輩が折れてくれて安心してるのに、少し残念だと思ってるなんて、馬鹿だな私。

「待ってくださいよ、せんぱーい!」

 駆け寄って横に並ぶと、堀先輩が少し私を見て、前を向いた。こんな風に、彼と一緒に下校できる期間も、残り少ない。一日が終わるごとにタイムリミットが近づいたことを噛み締めて、一人で落ち込んでいる私なんて、この人には知られたくない。

「おまえにも、あまり話したくない時があるんだな。いつもはこっちから訊かなくても、今日あったことだとか、女子から聞いた噂話だとかしゃべり倒してくるのに」

「……そうですね、極まれにですけど」

 別に、話したくないんじゃない。先輩の声をもっと聞きたい。

「そうか。まぁたまには、あまり会話せずに帰る時くらいあってもいいか」

 あぁ、そこはあっさり受け入れちゃうんだ。でもいいか。私だって、いま口を開いたら何を言うか分からないし。

 堀先輩、あなたも知ってるんですよね。『青い鳥』の結末。兄妹は自分たちの家にある鳥かごに青い鳥がいるのを見つけるけど、結局は逃げられてしまうこと。幸せは身近にあるけど、その幸せは永遠じゃないんだ。

 横目で先輩を見る。暗がりでも、水色のシャツは割と目につくな。近くで見てるから、そう感じるだけなのかもしれないけど。

 私が『青い鳥』のちゃんとした結末を知ったのは、高校に入ってからだった。それからこの物語について私なりに考えを巡らせてみたけど、やっぱり私は青い鳥を探しには行かないだろう。だって私はとっくに、近くにいる青い鳥のことを分かっているから。

 先輩、気づいてましたか? あなたこそが私にとって、幸せの青い鳥なんですよ。あなたの隣にいられることが、私にとってこの上ないほどの幸福なんです。

 でも、私は知っている。堀先輩は私よりも先に、高校という鳥かごから飛び立っていってしまう。青い鳥は私の傍に留まってはくれない。それを止められないことは、誰より私が分かってることだ。本当は今だって、帰りたくない。先輩と別れたくない。少しでも長く、先輩と一緒にいたい。先輩と並んで歩ける幸せに酔っていたい。

 

 青い鳥が飛び立つと知らずに逃げられた兄妹と、飛び立つ時を知っている私。一体、どっちがましなんだろうね。

 

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update 2014/11/22