私だけ
堀ちゃんが大学1年、鹿島くんが高3の設定です。
鹿島くんがヤンデレっぽいです。
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「最近、妙なんだよな」
眉間に皺を寄せた堀先輩が首を傾げる。
「どうしたんですか?」
「何だか、サークルとか講義でよく話す女子がいきなり大学に来なくなったり、態度が変わったりすることが多くて」
「俺なにかしたか?」と溜息を吐く堀先輩の目の前に、コーヒーの入った紙コップを置いた。
「お、悪い」
「いいですよ、これくらい。それにしても、面識のある女の人ばかりそんなことがあるなんて、確かに妙ですね」
私も紙コップをテーブルに置き、椅子に腰を下ろす。
「態度が変わるっていうのは、具体的にどんな感じなんですか?」
「何か、怯えた感じっつーか……でも、全く身に覚えがないんだよな」
「えーもしかして、先輩が無意識に相手の足でも見てたんじゃないですか? それで引いてるとか」
「いや、引いてるってのともまた違うんだ」
自分のコーヒーに口を付けながら、堀先輩を見る。先輩は憂い気な表情も決まるな。でも、私以外の女のことで先輩が悩んでるのはおもしろくない。
「怯えさせるくらい足をガン見してたとか」
「そんなことはない。足はそこまで好みじゃなかったからな」
「結局、見てはいるんじゃないですか。本当に足好きですね、先輩」
「相変わらずなんですからー」と笑ってみせると、堀先輩が表情を和らげた。
「そう言うおまえは、今もきちんと部活に出てるんだろうな」
「ちゃんと出てますよー。心配しないでください」
だって、サボったところで迎えに来てくれる先輩はいないんだから。それじゃ意味ないし、つまらない。
「俺がいなくなった途端、真面目になりやがって。そんなに俺と一緒に部活動するのが嫌だったのか」
「そういうわけじゃないですよ」
むしろ、堀先輩が引退した後の方が楽しくないし、行くのが億劫だ。でもこの人が望む限りは、私は舞台に出て王子を演じてみせる。だって先輩は卒業しても劇を観に来てくれるし、王子としての私を褒めてくれるから。
「……何がおかしいんだ、おまえは」
「えっ、何がですか?」
満面の笑みを浮かべる私を見て、堀先輩が溜息を吐いた。
「へらへらしやがって。これでも俺は真剣に悩んでるんだぞ。講義で一緒になる程度の面識の奴と距離ができたくらいじゃ別に困らないが、同じサークルの相手となると、サークル活動にも支障が出かねない」
「あー、なるほど。それは大変ですね」
「他人事だと思って、適当なこと言ってんじゃねぇ」
ああ、堀先輩が私の言動で心を動かせている。私によって気持ちが落ち着いたり、逆に苛立ったり。もっともっと、私の言葉で表情で、あなたを惑わせたい。
「すみません。でも先輩だって分かってるでしょう? 私はこういう奴だって」
「そうだな。伊達に二年以上も付き合ってるわけじゃねぇし。でも人が真面目な話をしてる時くらい、それに合った対応をしてもらえないか」
無理ですよ、先輩。だって私は、堀先輩に会えるだけで嬉しいんですから。つい笑っちゃうに決まってるじゃないですか。
「善処しますよ。だけど堀先輩、先輩は悲観しすぎじゃないですか」
「どういう意味だ」
紙コップをテーブルに置く。先輩を見て、今までで一番の笑顔を浮かべた。
「大学での人間関係が全てじゃないってことですよ。例え大学で先輩の周りから人が離れても、私はずっと先輩と一緒にいますよ」
まあ私にとっては、堀先輩が全てなんだけどね。
困った表情で「なに言ってんだ、おまえ」と言う先輩は満更でもなさそうで、私は笑みを深めた。
「そうなのよ、先生が思いきり間違えてんだから。笑えるでしょー?」
「そりゃ傑作だな。俺も見たかった」
私より数十メートル前方で、二人の男女が歩いている。一人は堀先輩だけど、もう一人は初めて見る女だ。ギャルっぽくて軽そうで、先輩の隣を歩くのにふさわしいとは思えない。
「あっ、そうだ。今度さ、政行くんも一緒にうちのサークルの飲み会行こうよ! 他のサークルの人も来るし」
「飲み会? 俺、飲まねぇけどな」
「別にいいよ、ジュースばっかり飲んでる先輩とかもいるから! ねっ、行こ」
政行くんって何? 軽々しく名前で呼んでるんじゃないよ。先輩の腕にしがみつくな、胸を押し当てるな。足フェチの先輩には効かないだろうけど、それでも腹が立ってくる。何で先輩も拒まないの? そんなチャラい女が好みだったの? 違うでしょ?
そのままの体勢で歩き続ける二人の後ろ姿を、ただ見つめ続ける。先輩が腕を振りほどく様子はない。絶対あの女、飲み会にかこつけて先輩にいかがわしいことをする気だってのに。
決まった、次のターゲット。絶対に逃がさない。
大学の門の前で、出入りする人間を見つめる。そろそろ来る頃のはずだけど、まだだろうか。
そんなことを考えていると、目の前に目的の人物が現れた。今日も隙だらけのギャルファッションに身を包んでいる。
一人で歩いているその女の方へ歩いていき、わざとらしくないようにぶつかった。
「きゃっ」
尻もちをついた女に口角が上がりそうになるのを堪え、身体を屈ませる。
「あっ、すみません。少し考えごとをしてたもので。大丈夫ですか?」
女が恨みがましそうに顔を上げた。しかし私を見た瞬間、頬を染める。
「だ、大丈夫です。こちらこそ、ぼーっとしてて」
「いえ、完全にこちらの不注意です。申し訳ありません。何とお詫びを申し上げればいいか」
「そそそんな、気にしないでください」
ちょろいな、この女。想像以上にちょろい。
手を差し出すと、女が掴んでくる。堀先輩にしがみついた手だ。汚らわしい。
「そうだ、お時間はありますか? お詫びにお茶でもご馳走させてください、お姫様」
微笑んだ私に、立ち上がった女が真っ赤な顔で頷いた。
「あります、全然あります!」
「それはよかった。では行きましょう、お勧めのお店があるんです」
歩き出すと、女も呆けた顔でついてくる。本当に軽いんだな、この女。
これでまず、第一段階は完了だ。さて、この女はどうやって陥れてやろうか。この女が絶望する瞬間を見るのが楽しみだ。
堀先輩に近づく女を排除するためなら、手段は選ばない。先輩には、私だけがいればいいんだから。
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update 2014/9/3