こうなるはずだったまゆみこの話 | Of Course!!

こうなるはずだったまゆみこの話

別ロマ2の本が「みこ→かしから始まるまゆみこ」という内容になる前、最初に考えてたのはこういう感じの話だったというものです。

 

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 人生、何が起きるか分からない。陳腐で聞き飽きたフレーズだが、紛れもなく真理だ。今日ほどそれを実感した日はない。

 この日、御子柴実琴は鞄いっぱいの荷物を抱えて、友人の野崎梅太郎が住むマンションに向かっていた。野崎の好意で自分の物を置かせてもらっている部屋に、新たなコレクションを追加するためだ。あまりの重さに何度も鞄を落としそうになりながらも、無事マンションに辿り着きエレベーターに乗り込む。階数のボタンを押すと、床に鞄を下ろし一息ついた。さすがに荷物が多すぎたようで、ここに来るだけでも重労働だ。

 エレベーターが止まり、扉が開く。鞄を再び手に取った御子柴は、降りた瞬間にへたり込みそうになった。日頃の運動が足りない自分を恨みつつ、マンションの廊下を歩き出す。今日は日差しが強く、蒸し暑い。流れる汗に不快感を覚え始めた頃、目的の部屋に到着した。インターホンを鳴らすと、しばらくしてドアが開かれる。

「あれっ、真由?」

 御子柴が目を丸くした。出迎えた野崎真由は無表情で、

「兄さんなら、画材を買い足してくると言って出かけました。もうすぐ戻ってくると思います」

「ふーん。で、おまえが留守番してるってわけか」

「はい。実琴さん、ずいぶん汗かいてますね」

「あぁ、これ運んできたからな」

 鞄を示すと、真由がドアを手で押さえて招き入れてきた。

「悪い」

「構いません。重いなら持ちましょうか?」

「平気だって。ここまで一人で運んできたんだし」

 空いている手を差し伸べてきた真由に笑ってみせた御子柴だが、玄関に上がろうとしたところでバランスを崩した。転びそうになった身体を、真由に抱き留められる。

「大丈夫ですか?」

 顔が真由の胸元に当たる。その胸板も、自分の身体を支えている腕も鍛えられて逞しい。その事実に、御子柴の鼓動が速くなった。

「実琴さん?」

「えっ、あっいや、大丈夫だ! 助けてくれてありがとな!」

 慌てて身体を離すと、真由が「ならいいです」と呟き御子柴の鞄を持った。

「やっぱり俺が運びます」

「お、おぅ。頼むわ。じゃあ、そこの部屋まで持ってってくれるか?」

「実琴さんの物が置いてある所ですか?」

「あぁ、その部屋」

 軽々と鞄を運ぶ真由の後ろから、彼を見る。今まで特に意識したことはなかったが、大きくて頼りがいのある背中だ。

 部屋に入った真由が鞄を下ろす。そのまま開けようとしたのはさすがに止めさせ、リビングに行ってもらった。鞄を開け、中の物を取り出す。特に傷つけてしまった物はないことを確認し、御子柴が胸を撫で下ろした。

 それにしても、先ほどは驚いた。見栄を張った直後に転びかけた己の迂闊さもそうだが、真由はあんなに頼もしかっただろうか。前にいちど彼の身体を見たことはあるが、凝視していたわけでもなく、あまり記憶に残っていない。あの腕にまた抱き締められたらどんなにいいか。

 そこまで考えて、御子柴は固まった。これではまるで、真由に恋しているみたいではないか。自分も彼も、男だというのに。頭では分かっていても、一度その単語を意識してしまえばそうとしか思えなかった。

 こうして、御子柴は思わぬ形で恋を知ることとなった。本当に、人生は何が起きるか分からないものだ。

 

 

 見上げる空は青く、雲ひとつない。自分の心も同じように晴れたら、どんなにいいだろうか。御子柴は頬杖をつきながら、溜息を吐いた。

「みーこしばっ。どうしたの? 今日ずっと上の空だけど」

 親友の鹿島遊が声をかけてくる。だが、いつものように応じる気になれない。

「なぁ、鹿島。恋って何だろうな」

「えっ!? どうしたの御子柴! 気になる子がいるの?」

「あー、まぁ」

「へぇー、マジで!?」

 「やるねー、御子柴」と楽しそうに言う鹿島には目もくれず、御子柴は窓の外を眺め続ける。鹿島が首を傾げ、

「どうしたの? 何か問題でもあるの?」

「問題つーか、そもそもそいつ、恋愛とか興味なさそうなんだよな」

「それって、本人に訊いたの?」

「そういうわけじゃねぇけど」

「じゃあ分からないじゃん」

 それもそうなのだが、誰かに恋をする真由が想像できない。だが確かに、真由が恋愛に興味あるかどうかはそれとは別の話だ。

「……やっぱ、それとなく探り入れてみた方がいいかもな」

「そうだね。やっぱり確認した方がいいと思うよ」

「だよな。でもつぎ会えるのがいつになるか分かんねぇし」

「えっ、他校の子?」

「中学生」

 「中学生!?」と大声を上げた鹿島に、クラスメイト達が振り向く。彼女に話したことを少し後悔しながら、先ほどより長い溜息を吐いた。

「ねぇ、御子柴。相手ってどんな子なの?」

「どんなって、そうだな。柔道やってて、すげぇ逞しくて頼りがいがあるんだけど、面倒くさがりでつい世話を焼きたくなるっつーか」

「……それは、なかなか独特な子だね。御子柴ってそういう子が好みだったの?」

「いや、それは」

 もともと同性愛者ではない御子柴に男の好みなどあるはずもなく、否定も肯定もできない。

「まぁ、俺ひとりっ子だから年下の世話やきたくなるってのはあるけど」

「なるほど。それで、今のところ望みはありそうなの?」

「いや全く」

「即答!?」

 鹿島が真っ青な顔になる。

「今のとこはな。でも、だからって諦めるつもりはねぇよ」

 男同士という時点で、越えるべきハードルがとてつもなく高いのは分かっている。それでも、好きになってしまったものは仕方がないのだ。

「いい心意気だね御子柴! 頑張って!」

 笑顔になった鹿島に、御子柴も笑って応えた。

 

 御子柴が恋した相手が男だと鹿島が気づいていないという根本的な認識の差は、とうぶん埋まりそうにはない。

 

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初出 2015/2/8(別冊ラブロマンス2無料配布冊子)

update 2016/12/2