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真夜中の迷子
アポ←ヴァカです。診断メーカー「限界オタクのBL本」にて出てきた、以下の結果を元に書きました。
綿絵のアポヴァカのBL本は
【題】真夜中の迷子
【帯】歳を重ねるほど臆病になる
【書き出し】甘い声音で名前を呼ばれるともうダメだった。
です
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甘い声音で名前を呼ばれると、もうだめだった。
「ヴァッカリオ」
もういちど呼ばれ、頬をなぞられる。笑みかけてきた兄から、目が離せない。
「お兄、ちゃん」
アポロニオの瞳が、柔らかくとろけた。ヴァッカリオが息を呑んで、それを見つめる。こんなふうに触れられたら、そんな目で見られたら、勘違いしそうになるではないか。
「黙んないでよお兄ちゃん。おいらに、何か言おうとしたんじゃないの?」
「そう思ったか。すまない。特に用事はないのだ。ただ、お前の名前を呼びたかった。だめだろうか?」
兄が首をかしげた。
「いや、それならいいんだけど。おいらのほっぺた触る意味、ある?」
目を丸くして、アポロニオが弟に視線を注ぐ。
「完全に無意識だった。嫌だっただろうか」
ヴァッカリオが、わずかにうつむいた。
「嫌じゃ、ないよ」
アポロニオが満面の笑みを浮かべる。
「そうか。ならよかった」
兄の手が、ヴァッカリオの頬を滑った。
「嬉しいのだ。こうして当たり前のように、お前に触れられることが。もうお前を亡くすその日を、恐れなくていいことが」
頬を何度も撫でられながら、ヴァッカリオは悟った。兄は自分の存在を、いま生きていることを、確認したいのだと。そう、ただそれだけだ。他意などあるわけがない。彼は自分とは違う。実の兄によこしまな感情を抱く自分と、この清廉な兄とは。
子どもの頃は、無邪気に兄に抱きついていたものだった。兄が抱き返して頭を撫でてくれることが、とても嬉しかった。兄弟にあるまじき劣情など、そこにはなかったのに。今は目の前の兄のように、なんの下心もなく触れることなど、とてもできない。それは自覚してしまった感情のせいか、重ねた年月のせいか。あるいは両方かもしれない。
いつまでこうして、兄弟としての時間を過ごせるのだろうか。そんなことをたまに思う。今みたいに触れられるようなことが続くようなら、そのうち、兄への恋心を隠せなくなるかもしれない。そうなった時、兄は今までと同じように接してくれなくなるだろう。それだけは嫌だ。ただでさえ十年、兄とは断絶していたのだ。兄との関係が修復された今、もうあの頃に戻ることはできない。
「ヴァッカリオ?」
頬に触れたまま、アポロニオが顔を覗き込んでくる。
「どうした、痛かったのか?」
「なに言ってるの。撫でられてるだけなのに痛いわけないでしょ」
「だが、泣きそうな顔をしているぞ」
心配そうな兄に、目を向けた。
「気のせいでしょ」
納得いかない様子で、アポロニオが見つめ続けてくる。だが、言えるわけがない。頬どころか、もっと深いところまで触れてほしいなんてことは。このまま兄弟として振る舞うべきだという気持ちと、兄弟としてではなく抱き合いたい恋情。その二つで揺れる心が、行き場をなくしている。
壁の時計へ、目を向けた。
「日付かわってるよ、お兄ちゃん。そろそろ寝よ」
アポロニオも、時計を見る。何か言いたそうにヴァッカリオへ目線を移し、息をついた。
「そうだな」
兄の手が、頬から離れる。なごり惜しさを感じながら、そこを手の甲で撫でた。
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update 2021/9/24