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思いを聞かせて
ギャスケネがくっつく話です。買ったほうである自分からケネスを求めることを躊躇するギャスパーとかいいなと思いながら書きました。
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ギャスパー・アルニックは、デスクで写真を眺めていた。取材の際、ケネス・ハウアーが撮ったものだ。どの写真を使うか考えながら、一つ一つを見つめていく。初めてカメラを持たせた時に彼が撮った写真はひどいものだったが、今は新聞に載せる写真として遜色がないものになっている。続けていれば様になるものだ。そう考えて、ソファに目を向けた。
視線の先では、少し熱のあるケネスが寝息を立てている。肩をすくめて、写真の束を整えた。
さっきまで来ていたヴィッキー・ワンや今久留主好介は、既に帰っている。彼らがいる時の騒々しさが嘘のように、今この空間はとても静かだ。再びケネスに目線を投げて、今久留主から言われた言葉を思い返す。それはとても甘く、ギャスパーの胸に響いた。
「恋人同士、か」
「本当になるか?」
ケネスが身じろぎする。少しずつ身体を起こした彼が、ギャスパーを見てきた。
「起きていたのか」
「いま起きた。で、どうする」
ギャスパーが眉を寄せる。
「なんの話だ」
「だから、本当に恋人同士になるかって言ってんだ」
まっすぐ見据えてくるケネスから、視線を逸らした。
「何を言って」
「なりたいんだろ? いいぜ。ギャスが望むなら抱くほうでも、その逆でも」
ギャスパーの額に、汗がにじんでくる。
「私は、そんなことをするためにお前と組んでるんじゃない。美学に反する」
「また美学かよ」
ケネスが立ち上がり、歩み寄ってきた。
「そんなんじゃなくて、お前がどう思ってるかだろ」
机に手をついて、ケネスが顔を近づけてくる。
「熱は下がったようだな」
「ごまかすな、ギャス」
唇同士が触れそうな距離で、ケネスがギャスパーを睨んだ。
「お前が俺に触れたがらないのは」
ケネスが顔を歪める。
「お前が俺を買ったからか?」
ギャスパーが目を見張った。
「結果として、俺を慰みものにするために手に入れたような感じになるのが嫌なのか?」
苦々しい表情を浮かべるケネスを、ギャスパーが見つめる。
「そうだ」
「でも俺が欲しいんだろ?」
ギャスパーの眼鏡を、ケネスが外した。それを机に置いて、また顔を寄せる。
「俺もお前が欲しい」
ケネスの唇が、ギャスパーのそれに重なった。ギャスパーが右手でケネスの腕を掴み、まぶたを下ろす。ケネスの髪を撫でて、その頭を抱いた。
ケネスが顔を離して、ギャスパーを見る。戸惑ったように、ギャスパーが視線を返した。
「言うつもりはなかったんだが」
「いつまでもごまかせるもんじゃねえだろ。いつかは限界がくる」
ギャスパーのスカーフを、ケネスが掴む。
「で、ギャス。返事、ちゃんと聞いてねえんだけど」
ギャスパーが小さく息をついた。観念したように、ケネスの頬を撫でる。
「好きだ、ケネス。私の恋人になってくれ」
ケネスが笑顔を見せた。
「おう」
スカーフから離れた手を、ギャスパーが握る。
「で、ギャス。どっちが上なんだ?」
ギャスパーが眉を下げた。
「まだそういう話は」
「なんでだよ! 俺にあそこまで言わせといて」
「お前が勝手にしゃべったんだろう」
不服そうに、ケネスがギャスパーを見つめる。そんな彼の背中に手を回して、軽く抱き寄せた。
「いま恋人同士になったばかりで、いきなりそういうことを考えるのは違うんじゃないか」
「それがお前の美学か?」
「そうだ」
まだ不満そうなケネスの顔を、ギャスパーが覗き込む。
「でもいつかは、お前を抱きたい」
ケネスがギャスパーと視線を合わせ、両肩を上げた。彼の首元に腕を回し、しがみつく。
「ん、分かった」
ケネスの髪を撫でて、ギャスパーが苦笑した。
「ところでお前は、本当に抱かれるほうでいいのか?」
「どっちでもいいって言ってんだろ。お前が手に入るなら、それでいい」
ギャスパーの髪に、ケネスが頬をすり寄せる。少し前、彼と言い合いになった時に投げられた言葉を思い出した。自分は彼に買われたのだと、だから言うことを聞けばいいのだという彼の発言。それは紛れもない事実だ。そしてその事実が意識の根底にあるからこそ、買った側である彼が自分に遠慮して、思いを閉じ込めようとしていたことも分かっている。その気になれば彼は一方的に、欲望をぶつけることもできるのだ。
ギャスパーがそう考えていると分かっているからこそ、自分から踏み出さないといけない。以前からそう思っていた。今回いいきっかけができて、こうして彼と抱き合っているわけだが、今久留主に感謝するのはなんだか癪だ。
ケネスの頭が、また撫でられる。
「急に静かになってどうした、ケネス」
「別に」
窓の外を見ると、橙と藍の混ざる空が視界に入った。
「もうすぐ夜だなって思っただけだ」
ギャスパーも窓へ目を向ける。
「そうだな」
ケネスがギャスパーから離れた。なごり惜しそうな彼に、口元を緩める。
「そんな顔するくらいなら、最初から我慢するなよ」
ギャスパーが目を丸くした。ケネスが明かりを点けて、彼を見る。
「仕事の話、終わってなかったよな。まずそこからだ」
ギャスパーが姿勢を正して、視線を返した。
「そういえば途中だったな。どこまで話したか」
「場所はK国の大使館、他国スパイの情報ありってとこは聞いた」
「ああ、そうだった」
図面を取り出したギャスパーが、それを机上に広げる。続きの説明を始めてからは、完全に今まで通りの二人だった。だがこれからは確実に、自分たちの関係性が形を変える。その予感に、ケネスが口角を上げた。
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update 2018/10/16