あの日から
12話のサクヤはこう考えているのかなという内容です。
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皇帝として就任してからというものの、やるべきことの多さに忙殺されそうだった。
でも、やることがあるのはいい。つらいことを考えないで済むから。こんなことを考えるのは、私を皇帝として慕ってくださっているみなさまに失礼だ。心の傷を見ないふりをするために、みなさまを利用するようで、胸が痛い。
何より、そばにサクラちゃんがいてくれる。ノーランドがロキを世界に放った時、皇帝としてネオ・ブリタニア軍に呼びかけ、七煌星団と協力させた彼女。彼女こそ、皇帝としてふさわしい。しかし彼女は、それを拒否した。あくまで自分は影武者だからと。私は少し考えて、彼女の拒否を受け入れた。
これは、私が引き受けないといけない立場なんだ。そうでなければ、ホッカイドウを取り戻すために犠牲になった人々にも、彼にも、示しがつかない。そういうことだ。サクラちゃんのほうが向いているとか、そういうことじゃない。「私」がやらなければいけない。
だから私は、その言葉を口にした。
「皇サクヤに命じる――」
もう二度と、ギアスという力で人の意思を曲げてはいけない。他人へギアスを使うのは、彼が最後だ。
とつぜん口が利けなくなった私に、サクラちゃんは驚いた。けど、すぐに受け入れてくれた。
「私がサポートします、サクヤ様」
親友にこう言われるのは、心ぐるしかった。
『サクヤ様はロキの件もあり、ご心労で、お言葉を発することができません。ですので、わたくしがサクヤ様のお言葉を代弁いたします』
そう言って、私の言うべきことを代わりに言ってくれたサクラちゃんは、とても頼もしかった。代弁する彼女が、私とそっくりだったから、世間はだいぶ混乱したようだけど。
その彼女が、ネオ・ブリタニア皇帝として指示を出したその人だとは、さすがに気づかれていないだろう。そう考えるのは、楽観的すぎるだろうか。
里親募集サイトに登録していた情報は、全て削除した。彼が遺してくれた子たちを、他の人に渡したくなかった。
母はとうの昔に亡くなり、父も殺され、彼すら喪った私にとって、家族はもうこの子たちだけだ。この子たちは匂いで判別しているのだろう。ロゼと全く姿が違う私に、すぐなついてくれた。
彼に対しても、もっと素直になついてよかったのに。捨てられた動物を拾う当事者だったにも関わらず、彼は私より動物に好かれていなかった。
いずれにせよ、自分で面倒を見ることを決めたからには、それを全うする。よほどのことがない限り、動物たちのほうが先にいなくなる。私がこの子たちを遺すことなんて、あってはならない。
たまに、彼の名前を呼びたくなる時がある。
決して短くない時間を、兄弟として共に過ごした。その関係は、偽りだった。でも、共に過ごした時間は決して偽りじゃない。彼をギアスで騙していた私が言えることじゃないけど、そう思わずにいられない。最期の彼の言葉が、ギアスによるものじゃないと、彼自身の心から湧いてきたものだと信じたい。
そうじゃなきゃ、最期すら誰かに操られたものだとしたら、彼にとっての救いってなんだったの? 私を助けることが、彼の救いだったの?
彼にギアスをかけた。私の騎士として、勝てと。それを受けて、私にひざまずいた彼が言った。
「イエス、ユアマジェスティ」
私は、騎士となれと言っただけ。なのに、「ユアハイネス」ではなく「ユアマジェスティ」なんて。そのあと本当に皇帝になるんだから、皮肉なものだ。
その言葉や、彼の遺言以外にも、彼との思い出はたくさんある。大半は、彼が動物を拾ったとかだけど。そもそも自分のことを語りたがらないし、いや、語らないのは当然か。何せ私は、彼がずっと守っていた弟に成り代わった。つらい境遇を共有しているはずの弟に、改めて過去の話をするわけがない。弟になった時点で、彼自身から彼の深いところを引き出せないのは当然だったのだろう。
あの世であなたに会えたら、話したいことがたくさんある。まずは、あなたがいかに英雄として語られているか。ロキの侵攻から数ヶ月で、街の復興もままならない中、Zi-アポロの銅像が建てられている。それがどんなに人々を鼓舞したか。
次に、あなたが拾ってきた子たちのこと。あと、もしかしたら、私が拾った子のこと。私自身の寿命もあるから、無尽蔵に拾う気はないけど。
それと、恐らく、私の子孫のこと。立場上、良家の子息との縁談は避けられない。両親のような、国を超えた愛のある結婚ではなく、家のための結婚をすることになるだろう。そうだとしても、きっと生まれた子どものことはかわいく思うはずだ。
ラズベリーとしての私に恋したあなたは、複雑な顔をするでしょう。でもきっと、皇重護の血脈が途絶えていないことに、安堵してくれると思う。その心配は、実際に縁談が持ち込まれてからするべきだろうけど。
彼が遺してくれた家族に囲まれながら、その名前を改めて心に刻む。
――アッシュ。アッシュ・フェニックス。
彼の遺してくれた世界を、私の代で潰えさせはしない。絶対に。
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update 2024/8/4