僕の愛しいお姫様 2 | Of Course!!

僕の愛しいお姫様 2

 ユーフェミア殿下曰く、コーネリア殿下の体調が近頃よくないらしい。

「スザク。姉様のお見舞いに行こう」

「そうだね、どんな様子か気になるし」

 頷いて見せると、ルルーシュは「そうと決まれば」と枝切りバサミを持ち庭に出た。ルルーシュの母が大事に育てていたというバラの前で立ち止まり、ハサミで何輪か切る。

「えっ、それ切ってもいいのかい?」

「いいんだよ。むしろ、いくつか切った方が他の花に栄養が行くんだ」

「そういうものなの?」

 ルルーシュはバラを輪ゴムで束ね、手提げのかごに入れた。「行くぞ、スザク」と玄関に向かう彼女の後を追い、外に出る。そのまま二人で歩いて、コーネリア殿下の暮らす離宮に辿り着いた。

「コーネリア姉様、ルルーシュです。お身体の具合はいかがですか?」

 ベッドに横たわるコーネリア殿下が、青い顔を向けてくる。

「ああ、すまないなルルーシュ。お前にも心配をかけてしまって」

「お気になさらないでください。今は、他のことは忘れて休んでいただかないと」

 笑顔を見せるルルーシュに、コーネリア殿下も微かに微笑み返す。

「今後のことは、もうお決めになったのですか?」

「……いや。まだ、決めかねているんだ。早い方がいいのは、分かっているが」

 皇女として生きるなら、子どもは中絶しないといけない。一人の女性としての幸せを望むのであれば、皇位継承権は失うだろう。そりゃ、確かに難しいよな。

「姉様。枕元の花がしおれてきてるみたいなので、代わりにこちらを挿してもいいですか?」

 ルルーシュが差し出したバラに、コーネリア殿下が目を丸くする。

「この花、マリアンヌ様の……いいのか、持ってきても」

「大丈夫です。姉様、お好きでしょう?」

 「優しい桃色で、ユフィの髪みたいですよね」と言いながら、ルルーシュが花瓶の花を挿し換える。

「ああ、いい香りだ。ありがとう」

 コーネリア殿下はバラを見ながら、うっとりする。

「なあ、ルルーシュ」

「はい」

「私は、間違ったんだろうな」

 バラを見つめたまま、コーネリア殿下が呟く。

「それは、どういう」

「一晩だけでも女になろうなんて、浅はかなことを考えてしまったから」

 自嘲するように微笑むコーネリア殿下に、ルルーシュが顔を強張らせる。

「姉様、もしかして、ギルフォードのこと」

「軍人としての技量と、帝国への――私自身への忠誠心を認めて騎士にした。それだけだったはずなんだ。私達の間に、そのような感情は生まれ得ないと思っていた。なのに、どうしてこうなったのか」

 嘲笑を浮かべたまま、コーネリア殿下が天井を向く。心配そうなルルーシュの表情にも、気づく様子がない。

「コーネリア姉様、私」

「ああそうだ、ルルーシュ。すまないが、少し席を外してくれないか? 枢木に言っておきたいことがある」

「僕ですか?」

 ルルーシュと顔を見合わせ、同時に首を傾げる。ルルーシュは納得いかない表情で立ち上がり、

「分かりました。では、しばし失礼します」

 それだけ言うと、部屋の外に出て行った。

「あの、一体、僕に言っておきたいこととは?」

 コーネリア殿下へ声をかけると、僕を睨みつけてきた。

「単刀直入に言う。ルルーシュに何かあったら、私は一生お前を許さない。例え、あの子自身がお前を許してもだ」

 それって例えば、コーネリア殿下が今なってるような状態とか、そういう感じだよな。

「ましてや、泣かせるなんぞ言語道断だ」

「それはないです」

「随分な自信だな。本当に、心からそう言い切れるのか?」

「はい。何があっても、彼女を泣かしたりしません」

 本当は、不安もある。でも、それじゃ駄目だ。決してそんなことはないと、強く言えるようにならないと。

「ルルーシュに対して、責任が持てるんだな? あの子が私の二の舞になるのはごめんだぞ」

「持てるとか持てないとか、関係ありません。絶対に持ちます」

 厳しい目を向けてくるコーネリア殿下から、視線を外さずに見つめる。殿下はそんな僕に溜息を吐き、

「まあ、気概は認めよう」

「ありがとうございます」

 何だか、恋人の親から結婚の承諾を得たような気分だ。いや、似たようなものかもしれないけどね、実際。

「話は終わりだ。ルルーシュを呼んで来い」

「あ、はい」

 部屋を出て、離宮の庭に出る。ルルーシュはそこで、真っ赤な花を眺めていた。

 ルルーシュを呼び、二人でコーネリア殿下の部屋に入る。

「姉様。一体、スザクと何のお話をされたのですか?」

「案ずるな。少し釘を刺しておいただけだ」

「そう、ですか」

 眉を下げたルルーシュが、僕を見る。肩をすくめて見せると、更に困った顔をした。

「ルルーシュ。私はここしばらくの間、自分がどうするべきなのか考えていた。だが、ついさっき、やっと決心がついたぞ」

「姉様」

 真剣な表情で、ルルーシュがコーネリア殿下を見る。殿下もルルーシュを見つめ、

「私が体調を崩した時、最初に何と考えたと思う?」

「……ええ、と」

「これでは公務に差し支えると、そう思った。私は真っ先に、仕事の心配をしたんだ。だから本当は、考えるまでもなく、答えは明白だった。ただ、ほんの少し残っていた女としての部分が、それを邪魔していたようだ」

「と、いうことは」

「子どもは堕ろす。やはり私は、皇女としてしか生きられないようだからな」

 コーネリア殿下の表情は、複雑だった。強い意思を秘めたようでいて、諦めも含んでいるような、そんな目だ。

「一人の女として生きるというのは、私には無理そうだ」

 溜息を吐くコーネリア殿下を、ルルーシュが見つめる。

「コーネリア姉様が選ばれたことですから、きっとギルフォードも納得しますよ」

「そう、思うか」

「はい」

 ルルーシュが頷いた。僕も、ルルーシュの言う通りだと思う。ギルフォード卿とはあまり話したことはないけど、彼がコーネリア殿下に絶対の忠誠を誓っているのは、すごく分かるから。

 コーネリア殿下が掛時計を見て、「もうこんな時間か」と呟いた。僕達も、つられて目を向ける。

「えっ、ちょっと待て、来てから四時間くらい経ってないか!? す、すみません姉様。随分と長居をしまって」

「気にするな。私の方こそ、気を遣わせてすまなかったな」

「とんでもないです。お元気そうでよかった。では、今日はこれで失礼します」

 ルルーシュが一礼して、部屋を出て行く。僕もお辞儀をして、彼女の後に続いた。コーネリア殿下の離宮を出てしばらく歩き、口を開く。

「よかったね。殿下、思ったよりピンピンしてたし」

「そうだな。体調がよくないってことだったから心配してたけど、もう大丈夫そうだ」

 僕の前を歩くルルーシュが頷く。

「なあ、ルルーシュ。君は、本当にこれでよかったと思う?」

「よかったも何も」

 ルルーシュは少しこちらを振り返り、また前を向いた。

「コーネリア姉様がお決めになったことなんだ。あくまで今回のことは、姉様とギルフォードの間でのことなんだから、私がどうこう言うべきじゃない」

 君は、本気でそう思ってるのか?

「ルルーシュ」

「……何だ」

「君はさ、もし自分が身籠ったら、どうするんだい?」

 溜息が聞こえた。多分、呆れてるんだろう。

「そういう感じのことを、私からお前に訊いた気がするが」

「うん、訊かれたね。ずっと傍にいるって答えたと思う」

「私が許したら、の話だろう」

「そうだね。ところでルルーシュ」

 ルルーシュが目を少しこちらへ向ける。

「僕の答えは言ったけど、君の考えは聞いていないよ。君がどうしたいのか、僕にどうしてほしいのか」

 立ち止まって振り返ったルルーシュは、目を丸くしている。かと思えば微笑んで、

「そういえば、そうだった」

「だろ? だから、教えてくれないか。君の望みを」

「私の、望み」

「ああ。君の口から、ちゃんと聞きたいんだ」

「私は」

 躊躇うような顔で、ルルーシュが地面を見る。口を僅かに動かしているけど、声は聞こえない。彼女は俯いたまま視線を泳がせて、何かに迷っている目をした。

「スザク、私は」

 ルルーシュの手が、スカートの裾を握りしめる。

「皇位継承権なんて、どうでもいい。スザクと一緒にいたい。一緒に、生きていきたい」

「ルルーシュ」

「もし私が皇女じゃなくなっても、一緒にいてくれるか?」

 不安そうな瞳が見上げてくる。

「当たり前だろ。ずっと一緒だよ」

 微笑みかけると、ルルーシュの手がこちらへ伸ばされた。それからしばらく抱き合い、再び離宮に向かって歩き出す。

 僕の前を歩きながら、「そういえば」とルルーシュが口を開いた。

「騎士って基本的には貴族なんだから、皇族の結婚相手として申し分がない奴も多いんだよな」

「そう、だよね」

「だから開き直って、自分の騎士と結婚する皇族もいないわけじゃないんだ」

「……そうなの?」

 コーネリア殿下にしてもルルーシュにしても、全てなかったことにするか、皇位継承権を捨てるかの二択のように話をするから、そういうものかと思ってた。

「まあでも、そんなことが許されるような状況は限られているがな。騎士の爵位が高いか、皇族の方がよほど上手く立ち回らないと。ほとんどの場合は結局、事実を闇の中へ葬るか、皇位継承権を失うかって話になる」

「そっか。大体、どれくらいの爵位だったら認められるものなのかな」

「最低でも伯爵じゃないと難しいだろうな」

「伯爵、か」

 この国の出身じゃない、爵位を持たない僕にはまず無理だ。皇族の騎士としての体裁を守るための「名誉騎士候」なんて肩書きはあるけど、ここから本物の貴族になんてなれるわけがない。

「でも、私の母さんは騎士候だった。庶民の出身だったけど、皇妃になった。誰も止める者のいない皇帝だからできたことだと言えば、それまでだが」

 独り言のように、ルルーシュが呟く。

「皇帝は騎士候と結婚できるのに、皇女はできないなんて、納得できないな」

「それは、でも、仕方がないんじゃないかな」

「何が仕方がないんだ。私がよく分からない貴族と政略結婚させられそうになっても、お前は同じことを言うのか?」

 あ、そうか。そういうことになるよな。

「ごめん、前言撤回する」

 そんなことは、例え話でもごめんだ。考えただけで死にたくなる。

 ルルーシュが微かに笑い声を漏らす。

「素直な奴だな。お前のそういうところは、割と嫌いじゃないぞ」

「えっ、本当!?」

「スザク、声がでかい」

 そんなことを言われても、しょうがないじゃないか。そんな一言でも、すごく嬉しいんだから。

「なあスザク。今夜は何が食べたい?」

「また自分で作るの? メイドさん困らせるのやめなよ」

「いいだろ。花嫁修業ってやつだ。皇位継承権と引き換えにお前と一緒になったりしたら、メイドなんて一人も周りにいなくなるんだからな」

 それは、確かにそうかもしれない。

「何でもお前の食べたいものを作ってやる」

「本当かい? じゃあ、うどん」

「うどんか。作ったことはないが、頑張って打つよ」

「手打ちなの!? 日本の主婦でもそうそうしないよ! やめろよお姫様だろ君!」

「食いたいって言ったのはお前だろ」

 

 

 ちょっとした用事を済ませるために一人で外出していた僕は、ルルーシュの待つ離宮の玄関に入った。普段はルルーシュと行動するのが基本だから、一人で出歩くのは違和感があるな。

「ただ今、ルルーシュ」

「ああ、お帰りスザク」

 真っ赤な顔でワイングラスを手にし、ルルーシュが僕を見た。彼女の足元には空のワインボトルが転がっている。

「何で、ワインを?」

「ああこれなー、シュナイゼル兄様がフランス土産だってくださったんだ。料理にでも使えばいいって言われたけど、どんな味がするのか気になって」

「何だそれ」

 溜息を吐いてみせても、ルルーシュは何食わぬ顔でワイングラスを呷る。

「まあ、君らしいとは思うけど」

「そうかなー」

「そうだよ」

 まあ意外と酔ってないみたいだし、今回はいいか。飲んだものを吐かせるわけにもいかないし、別に一本だけなら

「そうだ、スザクも一緒に飲もう」

 ルルーシュが赤ワインの瓶をテーブルに載せ、コルク栓を開ける。

「何さっさと開けてるんだよ」

「うわ、スザクが怒ったー」

「怒ってはいないよ、怒っては。君はあまり酔ってないと思ったのが間違いだったって感じただけで」

「よーしスザク、お前の分もグラス持ってくるぞー」

「人の話を聞いてくれないかな。持ってこなくていいから。自分のもしまって」

 コルクをボトルに嵌めようとしたところで、ルルーシュがワイングラスを僕の前に置く。

「何やってるんだ、スザク。もう開けたんだし、さっさと飲まないと」

 僕からボトルをひったくり、ワインをグラスに注ぐ。自分のグラスにも注いだルルーシュは、グラスに口をつけた。

「ほら飲め、スザク。一人より二人で飲んだ方が楽しいから」

「それ君の都合だよね。絶対に飲まないから」

 「絶対」を強調してみたけど、「私の酒が飲めないのか!」と叫ぶ始末だ。どう考えても、完全に酔っている。

「ところでさあ、スザク」

 拗ねたようにワイングラスを傾けて、ルルーシュが口を開く。

「私さ、考えたんだけど。この間さ、皇族と騎士の恋愛がどうとか結婚がああだとか、そういう話をしただろ」

「う、うん」

「今の状況って、やっぱり変だよ。ある程度の爵位がある騎士じゃないと、皇族との結婚は難しいような雰囲気とかさ。そういう法律があるわけでもないのに。みんな古い慣習に囚われすぎてるんじゃないのか」

 まさかこの流れで、そういう話を持ってくるとは。酔っ払いって怖い。

「だってさ、皇帝が騎士候の女性を皇妃にしたことがあるんだぞ。だったら皇女が騎士候の男と結婚してもいいだろ」

「でも、僕は名誉騎士候で」

「どう違うんだよ。騎士候は騎士候だろ」

 それでいいのか、君は。

「大体さ、何で私達が今の立場を失ったらどうとか、そういうこと考えないといけないんだよ。私達は騎士とか皇女とか以前に、ただの人間だ。ただの男と女だ。違うか?」

「……違いません」

「何だよそれ、公務以外で敬語を使うなって言ってるだろ!」

 理不尽だ。

「だったら、思わず使っちゃうような勢いでしゃべるのやめてくれるかな?」

「うるさい! 揚げ足取んな!」

 ああ、早く彼女の酔いが覚めてくれないだろうか。でも、

「騎士と皇女以前に、ただの男と女、か」

 それは、そうなんだろう。正しいことだと思う。

「けど、現に今、僕達はただの恋人同士でいられる状況にいない。君は皇女で、わがままばかり言っていられる立場じゃない」

「そんなことは分かってるよ」

 唇を尖らせた彼女は、とても愛らしかった。

 

 

「もし仮に、私とスザクが堂々と結婚できたとして」

 紅茶を一口飲み、ルルーシュが呟く。

「私がスザクの籍に入れば、結局は皇女じゃなくなるんだよな。皇位継承権を捨てて逃げるのとじゃ、世間的にはだいぶ違うだろうが、最終的にはそこまで変わらないよな」

「変わらない、のか?」

「変わらないよ」

 そこまで言い切るからには、そうなのかもしれない。

「君は今のところ、どうすれば円満な形で結婚できると思ってるんだい?」

「まあ皇帝に認めさせるしかないだろうから、皇帝に謁見するしかないな。とは言え、ただ行くだけで認めてもらえるとも思えないし」

 ルルーシュがティーカップをソーサーに置く。

「この際、既成事実でも作ってしまうか?」

「うん。……え?」

 一瞬、聞き流した自分が恨めしい。今、ルルーシュは何て言った?

「ごめん。もう一回言ってもらえるかな」

「だから、既成事実でも作ってしまうかって言ったんだ」

「何の」

「結婚するための。他にないだろ?」

「……君、まだ酔ってるのかい?」

 ルルーシュが眉を寄せて、僕の頬をつねってくる。

「いたたたた。痛い、痛いって」

「お前な、シュナイゼル兄様にいただいたワインを飲んだのは五日前だぞ。何でまだ酔ってないといけないんだ」

「分かった、分かったから離して」

 手を離してはくれたものの、ルルーシュは不満そうな顔をしている。

「ねえ、ルルーシュ」

「何だ」

「君の言う既成事実って、その、妊娠、とか?」

「他になにがあるんだ」

 そりゃ、他には思いつかないけど。けどさ。

「その既成事実は、必要なの?」

「ないよりはあった方が、認めさせやすいとは思うぞ」

「まあ、そうなんだろうなあ」

 そうなんだろうけど、それでいいのかな。何かもう、よく分からないしいいや。

「スザク、投げやりになるな」

「えっ、何で分かったんだい!? 読心術でも使えるの!?」

「馬鹿かお前は。思いきり口に出してたぞ」

 ルルーシュが呆れた顔で僕を見る。

「まったく。身体能力は大したものだけど、中身は騎士に向いてないよな。スザクは」

 大きく溜息を吐かれた。中身って何だ、中身って。

「私じゃなかったら、お前を騎士になんて絶対に指名しなかったぞ」

「だろうね」

「まあ私も、お前以外を騎士にする気はなかったけどな。もしお前と出会ってなくて、別の奴を騎士にしていたとしたら、お前みたいなタイプは絶対に選んでいない」

 言ってることは割とひどい気がするけど、ルルーシュの口元は優しく微笑んでいる。

 彼女の言いたいことは分かるんだ。つまり、僕だからこそ騎士にしたんだって、改めて言ってくれてるんだよね。君は、僕に何回告白してくれたら気が済むんだ。

「何で笑ってるんだよ、お前」

「それは、君のせいだよ」

 

 

 僕達とそこまで歳の違わない第五皇女が、皇帝の命でお見合いをした。そんな話を耳にした。相手はどこぞの侯爵らしい。

「それで、そんな渋柿を食べたような顔をしてるのか。お前は」

「微妙な例え方するのはやめてくれるかな」

「どうでもいいだろ、そんなこと。つまりお前は、私にも近いうちに同じような話が来るかもしれないって思って落ち込んでるわけだ」

 そうだけど、改めて他人から言われるのも嫌なものだ。でもこういう話を聞いてしまうと、もしかしたらって考えてしまう。

「もしそういう話が君に来たら、名誉騎士候の僕にはどうにもできないし」

 ルルーシュは「そうだよなー」と呟きながら、何かを考えている。

「そういえばユフィが、見合いをすることになったって言ってたな。相手は大公爵らしい」

「大公爵!? すごいじゃないか。ユーフェミア殿下とコーネリア殿下の母親って、爵位の高い貴族だったの?」

「ああ、でも侯爵くらいじゃなかったかな。今回の件については、コーネリア姉様が武人として目覚ましい功績を上げられていて、軍でも高い地位にいらっしゃることも考慮されたみたいだ。コーネリア姉様はまだ前線で働かれる意思をお持ちだから、姉様ではなくユフィに話が来たらしい」

「そうなんだ。コーネリア殿下って、もう今まで通り働いてるの? 手術を受けたとは聞いたけど」

 コーネリア殿下を見舞ってから、もう三週間が過ぎている。それ以後の話については、詳しいことは知らない。

「もう前線に復帰されているよ。姉様が身籠られていたことは、一部の者しか知らない機密事項だ。過去のこととは言え、うっかり口を滑らせたりするなよ」

「しないよ。今までだって大丈夫だったじゃないか」

「今まで大丈夫でも、これからも大丈夫だとは限らないものだ。私の後ろ盾になってくれている家の娘が、前に言っていた。変わらないものなんて何もないと」

 いつの間に淹れたのか、なぜか緑茶を啜っている。ルルーシュは遠い目をしながらお茶を口にして、

「その通りだと思う。昔は、母さんやナナリーがいるのが当たり前だと思っていた。その当たり前がずっと続くと思っていた。でも今、二人ともここにはいない。変わらない保証なんて、何もないんだ」

 湯呑みをテーブルに置き、悲しそうにルルーシュが俯く。彼女のこんな顔は、見たくない。

「あのさ、ルルーシュ」

 ルルーシュが顔を上げて、僕を見る。

「確かにどんなものでも、変わらずにはいられないかもしれない。でも、必ずしも悪い方向に変わるわけじゃない。そう思わないかい?」

「それは、そうかもしれないけど」

「僕は何があっても、悪い方向に変えさせたりしない。君には絶対に、悲しい顔をさせない。だから、君によく分からない奴との縁談が持ち込まれる前に、結婚しちゃおう」

 ルルーシュの手を握ると、眉を寄せられた。

「今の流れで、どうしてそうなるんだ」

「仕方がないだろ。気づいたんだ。今まで皇女と騎士の結婚がどうこうって話をしてたけど、結局のところ、僕の望みは最初から決まってたんだって」

 それに、結婚するしないって話を散々してきたのに、僕からはちゃんと、求婚の言葉を言えてなかったってことにも。

「僕には君といる未来しか考えられないし、君と一緒じゃなきゃ意味がない。これからも君の一番近くで、君を守りたいんだ」

 ルルーシュが困ったように目を逸らす。

「ルルーシュ、ちゃんと僕を見てくれないか」

 僕を見て、きちんと答えてほしい。結婚するための既成事実まで作ろうとしてたくらいだ。今更ノーとは言わせない。

 こちらを向いた瞳は、今にも泣きそうだ。僕の手が、柔らかい手に握り返される。

「幸せに、してね」

 

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update 2015/2/20