僕の愛しいお姫様 1 | Of Course!!

僕の愛しいお姫様 1

2007/6/15~同年8/23まで連載していた小説を手直ししたものです。

以下の内容を含みますので、苦手なものがある方はご注意ください。

・ユフィ→女ルルの百合要素あり

・ネリ様とギルフォード卿が関係を持つ(直接的描写はなし)

・妊娠話あり

・マリアンヌ様だけでなくナナリーも故人

 

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「ルルーシュ様」

 目の前にあるドアを二回ノックしたが、返事はない。もう一度ノックしても同じだった。

「ルルーシュ様ー」

 やっぱり返答がない。もしかして。

 ドアノブに手をかけて回すと、ドアが開いた。部屋の中に、人の姿はない。

「まったく、あの人はまた」

 溜息を吐き、部屋の中を見回す。隠れているわけじゃないようだ。自由奔放なのは悪いことじゃないけど、もう少し自分の立場を考えてくれないものかな。

 部屋を出て、廊下を歩き出す。行きそうな場所を何か所か当たれば、見つかるだろう。

 庭に出てみると、一番大きな木の枝に、人が腰かけているのが見えた。

「あんなところまで登っちゃって。おてんばなんだから」

 木の傍へ近づき、見上げる。風に揺れている長い黒髪は、間違いない。

「ルルーシュ様ー!」

 呼んだのと同時に、何かが僕の方へ飛んでくる。キャッチして見ると、真っ黒なミュールだった。

「スザク! 今はプライベートなんだから、その呼び方はやめろ!」

 声の方を向くと、眉を吊り上げたお姫様がいた。怒っていても綺麗だなあ、なんて考えてる場合じゃないか。

「あなたが下りてきてくださったら、お望み通りに呼んで差し上げますよ」

 僕の言葉に、彼女が下りようとする素振りを見せる。なのに、眉をひそめて僕を見下ろしてくるだけで、動く気配がない。

「もしかして、下りられないんですか?」

 あ、耳まで真っ赤になった。かわいい。でも下りられないのなら、最初から上らなきゃいいのに。

 微笑みながら、両腕を広げる。

「飛び下りておいで、ルルーシュ。僕が受け止めるから!」

 彼女は一瞬目を見開いたものの、すぐに僕へ視線を向けた。枝から飛び下り、手をこちらに伸ばしてくる。

 僕が彼女を抱き留めるのと同時に、彼女が僕の首にしがみついた。

「まったく。心配かけさせてくれるね、君は。怪我でもしたらどうするつもりだったんだい?」

「いいじゃないか。スザクが助けてくれたんだし」

「今回は僕が見つけたからいいようなものの、一人で出歩いてるのを他の皇族に見られたらどうなることか。その辺はきちんとしないと」

「はいはい、分かってるって」

「ちゃんと聞きなよ、ルルーシュ!」

 ルルーシュにも困ったものだ。皇位継承権を持つ、れっきとした皇女だというのに。

「それよりスザク。昨日作ったプリンがまだ残ってるから、おやつに食べよう

「それよりって、君ねえ」

 そりゃ、ルルーシュのお手製プリンは魅力的だけど。それとこれとは別問題だ。

「とりあえず下ろせ、スザク」

「はいはい」

 持ったままだったミュールを履かせ、ルルーシュを下ろす。

「それにしても、何でまた木に登ったりしたんだい?」

「スザクは一人で木登りできるから」

「どうしてそれが理由になるのさ」

 ルルーシュは頬を膨らませ、僕を見る。

「私はできないから、悔しくて。絶対いつか、一人で木に登ってやろうと思ってたんだ」

「思うのは自由だけど、何も言わずに実行するのはやめてもらえるかな? こっちの心臓に悪いから」

 眉を下げ、彼女が頷く。本当に、かわいい人だ。

「まあ、君が無事だったからいいけどね」

 笑いかけながら彼女の手を握ると、彼女も握り返してくれる。手を繋いだまま、僕達は離宮へと戻って行った。着くなりキッチンに向かったルルーシュが、冷蔵庫を覗き込む。

「プリンさ、普通のと黒ごまとチョコレート、どれがいい? あ、抹茶もあった」

「じゃあ抹茶で」

「分かった。私は黒ごまにしようかな」

 プリンを二つ取り出した彼女は、肘で冷蔵庫の扉を閉めた。

「行儀悪いなあ」

「うるさい。閉められればいいんだよ、こんなのは」

 うわあ、すごい結果論。

「いや、でもさ。女の子なんだから、もう少しそういうことにも気を配って」

「関係ないだろ。男女差別だそれは。そんなに女らしい皇女に仕えたかったら、ユフィの所にでも行ったらどうだ」

 なぜそこでユーフェミア皇女殿下の名前が出てくる。

「嫌だ。僕はルルーシュがいい。絶対に、僕の主はルルーシュだけだ」

 ルルーシュは目をぱちくりさせて、眉を寄せた。

「またそんなこと言って。何を熱くなってるんだ、お前は」

「本気だよ、僕は」

「分かった分かった」

 何だその返事は。

「なあ、ルルーシュ」

「とりあえず、さっさとこれ食うぞ。ぬるいプリンなんて嫌だからな。生ものだし」

 手にしたプリンを示したルルーシュは、お盆にプリンとスプーンを載せて厨房から出て行った。

「ルルーシュ」

 早足で遠ざかって行く背中に呼びかけても、返事はない。

「もしかして、怒ってるの?」

「別に」

 声が怒ってるんだけど。何か僕、怒らせるようなこと言ったか?

 互いに口を開かないまま、部屋へ着く。僕がドアを開けようとしたのを遮って、お盆片手にルルーシュが扉を開き、僕を見た。僕が部屋に入ると、ルルーシュも入りドアを閉める。

「それくらい、僕がやったのに。君、何か大変そうだったし」

「どうしてそう思うんだ」

「ドアを開けてた時、お盆を持ってた方の腕が震えてた」

「気のせいだろ」

 気のせいってことはないだろ。どうして君は、いつもそうなんだ。

「さっきさ」

 僕が口を開くと、ルルーシュがお盆を置きながら目線を向けてくる。

「女の子なのに、なんて言っちゃったけど、別に僕は、女性は女性らしくしないといけないなんて思ってるわけじゃないんだ。ああいうとこも君らしくていいと思ってる」

「知ってる。でもやっぱり、お前にとって私は一人の女なわけだろ。で、お前はどっちかと言うと、女っていうのは男が守るべき存在って思ってる部分がある。だけど私は、ただ守られるだけの女になるつもりはないんだ」

 今まで君を見てきて、そういう人なんだってことはよく分かってる。でも、

「ひどいなあ、君も。守らせてもらえないんじゃ、何のための騎士なんだか」

「仕方ないだろ。シュナイゼル兄様やコーネリア姉様に、騎士を持てってせっつかれたんだから」

「仕方ない? ふーん、仕方なく僕を騎士にしたんだ。じゃあ、誰でもよかったんだね」

 僕は、君じゃなきゃ駄目なんだけどな。

 ルルーシュの方を見ると、彼女は頬を赤く染めて視線を逸らした。

「そんなこと、一言も言ってないだろ。睨んでくるな」

 なぜここで赤くなるんだ、君は。

「私はさ、騎士を決めないとそのうち周りがうるさくなることくらい、分かってたんだ。自分で選ばなかったら、兄上や姉上が選んだ人間を騎士にさせられていただろう。どっちにしろ、騎士を選ばないといけない時は来る。だからこそ、私は、お前を」

 耳まで真っ赤になり、ルルーシュが俯く。ドレスの裾を握る腕が、少し震えていた。

 ルルーシュの言いたいことは分かる。誰でもいいなら、兄や姉が見立てた優秀な人間を騎士にすればよかったんだ。でも彼女は、それを選ばなかった。騎士の家柄が重視されるこの国じゃ、外国出身で地位が高くない僕を騎士に選ぶことは、デメリットしかない。誰でもいいから僕を騎士にするなんて、そんなことあるわけがないのに。

「ルルーシュ、ごめん」

 ルルーシュの顔を覗き込み、目を見て告げる。彼女の瞳が揺れた。

「何で謝るんだ」

「ひどいこと言っちゃって。僕は、とんでもないことを」

 ルルーシュが溜息を落とす。顔を少し上げて、

「いや、私の言い方が悪かった。すまなかったな」

 怒ってくれればいいのに。どうして君は、いつもそうやって。

「べ、別にへこんだわけじゃないんだ。どっちかと言うと、照れくささの方が強かったし。その、ああいうことって言い慣れてないから」

「ああいうことって?」

 また顔を真っ赤にして、ルルーシュが睨んでくる。

「何だお前。私の一世一代の告白を受け流しやがって」

「えっ、告白!?」

 告白って、愛の告白ってこと? さっきのってそういうことだったの!?

「騎士にするのは私が本気で惚れた男だって、昔から決めてたのに。だから騎士にしたのに。まず騎士の指名自体が告白のつもりだったのに」

 一人でそんなことを呟いているルルーシュは、それはもうかわいい。僕はルルーシュを抱き寄せ、彼女の背中に腕を回した。

「スザク、苦しい」

「ごめん。我慢して」

 抱きしめる腕に力を込める。彼女からも抱きしめ返してくれるとこも愛らしい。

「ねえ、ルルーシュ」

「何だ」

「君がどう思っていようと、僕は君を守りたい。やっぱり男として、好きな女の子を守りたいって思うし」

 僅かに身体を離して、ルルーシュの顔を覗き込む。彼女は眉を寄せて、

「分からない奴だな。好きな相手を守りたいって思うのに、男女は関係ないだろ」

「そうかもしれない。でも、僕は君の騎士だよ? 騎士が主を守るのは当然のことだろ」

「分かってるさ、変なことを言ってるってことくらい。だけど」

 ルルーシュの睫毛が震えている。

「僕は君に全てを捧げて、君のものになるんだってって決めたんだ。だから、君のいいように僕を利用すればいい。使い捨てでもいいから」

「利用なんて、できるわけないだろ。ましてや使い捨てだなんて」

「うん、君ならそう言うだろうね」

「分かってるなら言うな、馬鹿」

 利用すればいいなんて言ったくせに、君がそう言ってくれることが嬉しい。矛盾してるな、僕は。

 ルルーシュが不満そうに、上目遣いで睨んでくる。潤んだ目元は、正直言って反則だ。

「人の顔をじろじろ見るな」

「いや、だってその、あれだ。君が」

 何でどぎまぎしてるんだ自分。落ち着け。

 ルルーシュが吹き出し、笑い声を立てる。

「何だそれ。変な奴」

「変!? ひどいやルルーシュ!」

「全然そう思ってるように見えないが?」

 分かってるさ。多分、情けないくらいのにやけ面だろうよ。

「なあ、スザク。さすがに食べないか? プリン」

「そうだね。持ってきてから結構経ってるし」

 それぞれプリンとスプーンを手に取り、一口掬う。口に入れると、案の定ぬるかった。

「微妙な温度だな」

「そうかな。充分おいしいよ」

「無理しなくていいぞ」

「えー、本音なのに」

 

 

 弓を引き、矢尻を的へ向ける。的の中央に焦点を合わせ、真っ直ぐ見据えた。右手を弦から離すと、矢は一直線に飛んで行く。既に何本も矢が刺さっている場所に、放った矢が刺さった。

「皆中!」

 声の方を向くと、ルルーシュが楽しそうに微笑んでいる。

「やっぱりすごいな、スザクは。全部真ん中に当てるなんて。武道の才能があるんだな」

「そ、そうかな」

「ああ。十本もの矢を全部同じ所に命中させるなんて、並大抵のことじゃないだろ。ましてや中央に!」

 初めて見るわけじゃないのに、よくもまあこれだけ楽しそうに話せるものだ。そりゃ、悪い気はしないけど。こうやってルルーシュが褒めてくれるのは嬉しいし、もっと頑張らないとって気にさせてくれるしさ。

「スザク、汗かいてるぞ。拭いてやる」

 ルルーシュは手にしていたタオルで、僕の汗を拭ってくる。「これも飲め」とスポーツ飲料まで渡してきた。体育会系クラブのマネージャーか君は。

「ルルーシュー」

 ルルーシュの背後にある茂みが揺れ、声が聞こえる。目をぱちくりさせ、ルルーシュが振り返った。

「その声、ユフィか?」

「はいー」

 声の主は茂みを大きく揺らし、長い髪やドレスに葉っぱをつけて現れた。

「こんにちは。ルルーシュ、スザク」

「まったく、またそんな所から出てきて」

 ルルーシュがユーフェミア皇女殿下に駆けより、葉っぱを一枚ずつ取っていく。ユーフェミア殿下は頬を染め、嬉しそうにそれを受け入れていた。

 流れ続けている汗を拭い、ストローでスポーツ飲料を啜る。少しずつしか飲めないのがいらっとくるな。

 何だよ、ルルーシュの奴。ユーフェミア殿下が来た途端、そっちに行っちゃって。

「お待たせ、スザク。中に入ろう。お前も汗かいてるし、着替えた方がいいだろ」

 声をかけてきたルルーシュは、ユーフェミア殿下の手を握っている。ユーフェミア殿下は誇らしげに微笑み、

「そうですよ、スザク。着替えた方がいいわ」

「とりあえず先に戻ってるぞ」

 ルルーシュはそのまま、ユーフェミア殿下を連れて離宮へ戻って行った。

「僕も戻るか。確かにこのままじゃ気持ち悪いし」

 溜息を吐き、弓を手に戻って行った。的は面倒くさいから後で片付けよう。

 シャワーを浴びて着替え、ダイニングに行く。そこでは皇女二人がお茶会をしているところだった。

「このチーズケーキおいしいわ。ルルーシュ、パティシエになれるんじゃない?」

「なれるわけないだろ。まあ、そう言われると悪い気はしないけどな。ほら、スザク。お前も食え」

 ルルーシュに差し出された皿とフォークを受け取る。お皿の上にはベイクドチーズケーキが一切れ。二人の向かいに腰を下ろし、一口食べた。うん、おいしい。さすがルルーシュだ。

 紅茶を僕の前に置いたルルーシュは、ユーフェミア殿下に話しかけられ、楽しそうに応じている。女子二人の会話には、とても僕は入って行けない。

「どうした、スザク。手ひどく裏切られた元恋人と再会したような顔をして。お前の口には合わなかったか?」

 何だその例えは。

「ううん、おいしいよ」

「じゃあ、疲れたのか? さっき随分動いたもんな」

「大丈夫だよ。一応、鍛えてるからね」

 微笑んで見せると、ルルーシュは納得いかない顔をしながらもティーカップを手に取った。ユーフェミア殿下がまたルルーシュに話しかけ始める。

 全員がケーキを平らげた後も、ルルーシュとユーフェミア殿下の会話は続いた。他の皇族に関する噂話なんかを話してて、ちょっと僕にはよく分からない内容だ。まったく、いつまでこんな状態が続くんだか。

 僕は溜息を吐き、紅茶を口に含んだ。その瞬間、電話の音が鳴り響く。三コールでルルーシュが受話器を上げた。

「ルルーシュです。ああ、コーネリア姉様。こんにちは」

 コーネリア殿下が電話なんて珍しい。どういう用件なんだろうか。

 ルルーシュを見ていると、たまにユーフェミア殿下へ顔を向けながら、少しずつ眉を寄せて行く。

「はい、分かりました。すぐに帰らせます」

 受話器を置いたルルーシュが、ユーフェミア殿下へ顔を向ける。

「ユフィ。姉様が、すぐに戻ってきてほしいって」

「緊急事態なの?」

「具体的なことはよく分からないが、とにかく大変な状況みたいだ。今すぐ自分の離宮に戻れ」

「……分かりました」

 「チーズケーキ、本当においしかったわ。ありがとう」とお辞儀をしたユーフェミア殿下は、何回かルルーシュの方を振り返りながら帰って行った。

「何があったのかな」

「あのコーネリア姉様が相当慌ててたから、よっぽどのことだと思う。姉様とは思えないくらい言ってることが要領を得なくて、状況に関してはさっぱりだけどな」

 また眉を寄せたルルーシュを、そっと抱きしめる。

「君が悩んでどうするんだよ」

「どうしようもないってことは分かってるさ。私には事情が掴めてないし。でも、気にすることくらいはできるから。むしろ、それしかできないって言った方が正しいが」

「自分を卑下するようなことを言うんじゃないよ」

「だって、姉様が困ってるみたいなのに、私は」

 ルルーシュが僕の袖を握ってくる。僕は彼女の頭を撫でて、

「今は向こうも大変だとしても、落ち着いたら話してくれるんじゃないかな。それまで待とうよ」

「やっぱり、それしかないのかな」

 見上げてきたルルーシュは、眉を下げて溜息を吐いた。

「大丈夫だって。コーネリア殿下はいつも、何かあったら君に話してくれるだろ」

 軽く頭を叩く。ルルーシュは頬を赤くして微笑んだ。

「ありがとな、スザク」

「どういたしまして」

 まだ心配そうな表情だけど、よかった。ルルーシュが笑ってくれて。

 ルルーシュが僕の背中に腕を回し、視線を向けてくる。軽いキスをして、二人でルルーシュの寝室へ向かって行った。

 月の光が差し込む部屋で愛し合った後、彼女が僕にくっついてくる。幸せそうに笑う彼女に、僕も微笑み返し、柔らかい身体を抱き締めた。

「明日は、首元が見える服は着ないようにね」

 赤くなった箇所を指して言うと、「分かってる」と彼女は頬を膨らませる。その頬に何度か口づけすると、彼女は笑い声を立てた。

「スザク、くすぐったい」

 なんて言いながらも僕の背中に腕を回してくる彼女の額に、キスをする。唇を塞いでも、彼女は抵抗しない。

 角度を変え、口づけを深くする度に、彼女が甘い息を漏らす。潤んだ瞳が、僕を見つめてきた。

「誘ってるの?」

「……馬鹿」

 そんな真っ赤な顔で言っても、かわいいだけなのに。本人は分かってないんだから、性質が悪いよな。

 僕はルルーシュを抱き締め直し、そのまま眠りについた。

 

 騎士と皇族が恋仲だと知れたら、引き離されるのはもちろん、場合によっては皇族の皇位継承権が剥奪されるそうだ。だから僕達は、公の場では皇族とその忠実な騎士というスタンスを守ってきた。

 彼女と、これからもずっと一緒にいたいから。

 

 

「妊娠?」

 告げられた言葉に、眉を寄せる。横に座っているルルーシュも、同じ表情をしていた。

「コーネリア姉様が? 本当に?」

 正面に座っているユーフェミア殿下が、ルルーシュの問いに頷く。

「誰なんだ? そんな、命知らずなことをした相手は」

「それが、ギルフォード卿らしいの」

 声を上げそうになった僕の口を、ルルーシュが慌てて押さえた。自分も動揺してるだろうに。

「お姉様は万一に備えて、ルルーシュとクロヴィス兄様、シュナイゼル兄様には話しておくつもりだとおっしゃってました。でも、やっぱり自分の口からは言い出しづらいみたい」

 「だから私が、メッセンジャーになってるんです」と言いながら俯く姿は、この離宮に来る度にルルーシュに引っ付いている、いつもの姿からは想像できないものだ。

「でも、何であの二人がそんなことに」

「そこまでは知らないです」

 知ってたら怖いよ。

 ユーフェミア殿下は、お茶を飲み干すとすぐに帰って行った。

「何か、笑えない話だったな。いろんな意味で」

「確かに、他人事じゃないよね」

 実際、僕達に起きてもおかしくないことだ。そういうこと、してるわけだし。

「もし、もしだぞ。私が身籠ったりしたら、お前はどうする?」

 僕がいるのと反対の方向を向き、ルルーシュが口にする。もしかして、不安なのか? 僕の答えなんて、とっくの昔に決まってるのに。

「君が許してくれるなら、傍にいるよ。ずっと、永遠に」

「どういう意味だ、それは」

「だって、もしそんなことになったら、ばれる前に全部なかったことにするものじゃないの? 中絶して、僕を解任してさ。捨てられる心配をするとしたら、君より僕の方になると思うけど」

 ルルーシュが音を立てて両手を合わせる。

「そっか、そうだよな。大抵そういうものだよな」

 もしかして、もしかしなくても、ルルーシュって皇族としては変わり者っぽい?

「コーネリア姉様はどうされるのかな」

「分からないけど、今まで通り前線に立つつもりなら、子どもは邪魔になるんじゃないかな」

 ルルーシュは眉を顰め、下を向いた。僕、何か変なこと言ったのかな?

「そうか。そういう、ものなんだろうな。じゃあお前も、もし子どもがいたら邪魔に思うのか?」

「えっ、何で」

「だって、お前も軍人だろ」

「いや、そうだけどさ。そういうのって、男女じゃやっぱり違うだろ。お腹が大きくなったら戦いづらいだろうから、女性のコーネリア殿下にとっては気になると思うよ。でも、僕は男だし」

「あ、そういう意味か」

 どういう意味だと思ったんだ、君は。

「てっきり、子どもがいたら『家で待ってるあの子のためにも死ねない』って思って、戦いに集中できないとかかと」

「それは、ないんじゃないかな。逆に、戦いが終われば子どもに会えるって考えると、士気が上がると思う」

「確かに、それはそうかもな」

 上を向き、ルルーシュが呟く。

「まあ何にせよ、今回の問題を何とかしないと、姉様は立場的な面以外にもいろいろと大変になるよな。外聞とか、まあ、あちこちが。やっぱり、コーネリア姉様がどうされるか、そこが問題だ」

 そこなんだよな、結局は。

 僕達は顔を見合わせて、同時に溜息を吐いた。

 その日から僕達は、そういうことをしなくなった。いや、元々ルルーシュは自分から誘ったりしなかったし、僕が迫らなくなったというのが正直なとこだけど。だって、身近でこういう問題が起きたんだ。気を付けないといけないと思う。それに、今回のことは、熱に浮かされていた僕にはいい薬だった。コーネリア殿下達にはとても言えないことだけどね。

 代わりに、他愛ないごっこ遊びや手遊びをするようになった。ルルーシュも意外と乗り気だし、こういうのも悪くない。むしろ、そういうことをしなくても、ルルーシュといるだけで充分に楽しいんだって、改めて気づかされた気分だ。

 そんな時間の中で、折り紙をルルーシュに教えたところ、とても綺麗な鶴を折ってくれた。でも、八年前にルルーシュの母親と一緒に命を落とした、同腹の妹であるナナリー殿下の方が、こういうのは得意だったらしい。

「そっか。見てみたかったな、ナナリー殿下の折った折り鶴。きっと、日本人がみんな悔しがるくらいすごいのができたんだろうね」

「ああ、そうだな」

 ルルーシュはそう言って、優しい姉の顔で笑った。

 

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update 2015/2/19