お揃いの幸せ | Of Course!!

お揃いの幸せ

二人とも前世の記憶ありです。

26巻を読んだ後、サシャが平和な世界で過ごしてる話を書きたい!と書き始めたものの、野崎くんの原稿があったので途中で置いてたものでした。

 

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 ファストフード店で、少女がふたり向かい合って座っている。その一人、サシャがチーズバーガーに勢いよくかぶりついた。正面のミカサはそれを見ながら、少しハンバーガーをかじる。

「ミカサ、一口が小さいですよ。ハンバーガーはもっと勢いよく食べないと!」

「食べながらしゃべらないで、サシャ」

 サシャが口の中のものを飲み込む。彼女のポニーテールが、かすかに揺れた。

「いやぁそれにしても、いい時代に生まれましたね。おいしいものがたくさんありますし、お肉だっていつでも買えるんですから」

「確かに豊かだし、平和でいい世界」

「ですよね。ハンバーガーもおいしいですし。考えた人は天才です」

 感心するようにうなずいて、サシャがまたチーズバーガーに食らいつく。ミカサは肩をすくめて、ハンバーガーをひとくち食べた。

 しばらく経って、サシャがチーズバーガーとチキンナゲットを平らげる。彼女はシェイクをストローですすりながら、ミカサを窺った。まだハンバーガーを食べている口元に、自然と目が向く。

「見てもあげない」

「いや取りませんよ!? あの頃じゃないんですからそこまでしませんって!」

 サシャが音を立ててシェイクを飲み干した。

「まぁミカサが、多くて食べきれないと言うなら遠慮なくいただきますが」

「大丈夫。食べきれる」

 不満げにサシャがミカサを見る。サシャの視界に、ミカサの黒髪が映った。背中まで流れる髪は、あでやかで美しい。

「それにしてもミカサ、髪のびましたね」

 口に含んでいたハンバーガーを胃に収めて、ミカサが視線を返した。

「多分、サシャと同じくらいの長さだと思う」

「ですよね」

 空になったハンバーガーの包み紙を、ミカサが折り畳んでトレイに置く。シェイクを飲み始めた彼女の黒髪を、サシャが再び眺めた。

「ミカサ、髪を結んだりはしないんですか?」

 ミカサが自分の髪をつまむ。

「そのほうがいいかもしれない。暑さが厳しいので」

「そうですよ。私みたいにうなじ出したほうが涼しいですよ。そうだ、いっそお揃いにしませんか?」

 笑顔のサシャを、ミカサが見つめた。

「誰と」

「私とです」

「なぜ」

「なぜって、ほら、簡単ですし。くくるだけですよ」

 ミカサが残ったシェイクをすする。全て飲み終えて、容器をトレイに置いた。彼女の目が、サシャのポニーテールに向く。

「確かに、それもそうだ」

「そうですよ。あっ、ならヘアゴムもお揃いにしませんか?」

「ヘアゴム?」

「はい。リボンだとほどけちゃうかもしれませんし、ゴムのほうがいいですよ」

「確かに」

 ミカサがうなずいた。

「でも、サシャとお揃いにする必要は?」

「必要はないかもしれませんが、いいじゃないですか。せっかく髪型をお揃いにするんですから」

 サシャのポニーテールをまた見つめ、ミカサが考える。

「どうですか? シュシュもありだと思いますけど」

 ミカサの視界で、またポニーテールが揺れた。

「ヘアゴムにするかシュシュにするかは、お店で見て考える。お揃いは」

 サシャが期待するようにミカサを見つめる。

「どちらでも構わない」

「ならしましょう、お揃い!」

 サシャが立ち上がった。

「そうと決まったら、さっそく買いに行きましょう。食事は終わったことですし」

 ミカサも腰を上げる。それぞれ自分の鞄を肩にかけ、トレイを持って席を離れた。ゴミを捨ててトレイを返却し、店の外に出る。

「この辺にいいお店ありましたっけ」

「近くに雑貨屋がある。行ってみよう」

「はい!」

 ふたり並んで歩き始める。楽しげなサシャの様子に、ミカサが目を伏せた。かつて過ごした世界で、サシャは先に逝ってしまった。

「ところでミカサ、本当にハンバーガーとシェイクだけでよかったんですか?」

「うん。あまりお腹すいてなかったから」

「そうですか。うん、今はいつでも食べられますしね。それでいいんでしょう」

 今のサシャは生きているのだからと気にしないようにしているが、それでも一緒にいると、何かにつけて思い出してしまう。高校生にもなって友人とお揃いというのは気恥ずかしいが、彼女が息絶える瞬間のことを思えば、わずかな羞恥心など取るに足らない。

 ミカサが足を止める。

「ここ」

 壁が淡いピンク色の、小さな店を指した。

「かわいいお店ですね。では行きましょう!」

 扉を押し開けると、取り付けられた鈴が鳴る。少し進んでいくと、フルーツ型の飾りがついたヘアゴムが置かれていた。

「へぇー、結構リアルにできてますね」

「サシャ、それは食べられない」

「分かってますよ!」

 ミカサがヘアゴムに視線を注ぐ。

「ミカサ、それ気になるんですか?」

「……いや、他のも見てみよう」

 また歩を進めると、シュシュが視界に入ってくる。こちらにもフルーツ柄のものがあり、ミカサの目を引いた。

「ミカサ、果物たべたいんですか?」

「そういうわけじゃない」

 ミカサがパイナップル柄のシュシュを手に取る。

「サシャはヘアゴムとシュシュ、どっちがいい?」

「私ですか? いつもゴムなのであまり考えたことないですけど、シュシュってドーナツみたいな形してて、見てるとお腹すきますよね」

 ミカサがわずかに眉を寄せた。

「さっき食べたばかり」

「それくらい覚えてますよ。私の胃袋だって限度があるんですから、さすがにドーナツ食べようなんて言いませんって。夕飯が入らなくなっても困りますし」

 サシャが胃の辺りをさする。

「こんな心配をすることになるなんて、あの頃は思ってませんでした」

 ミカサが首を縦に振った。

「うん」

「あっミカサ、これどうですか?」

 サシャがえんじ色のシュシュを示す。

「あの頃ミカサが着けてたマフラーの色と似てませんか?」

 ミカサがそのシュシュを見つめた。

「確かに似ている。でも私がこれを選んだら、お揃いのサシャも無地のものを着けることになる」

「別に気にしませんよ。果物柄だったところで、食べられるわけじゃないですしね」

 サシャが紺色のシュシュを手にする。

「ミカサが赤系なら、私は青系にしましょうか」

「白という手もある」

「赤と白ですか。紅白まんじゅうみたいでいいですね」

 ミカサが小さく笑った。

「えっ、なんで笑うんですか!?」

「いや」

 えんじ色のシュシュをミカサが手に持つ。

「けっきょく食べ物に繋がるんだって思っただけ」

 ミカサがサシャの髪を見た。

「サシャの髪色なら、紺より白のほうが映えるかもしれない」

「そうですか? なら白にしましょうか」

 紺色のシュシュを置いたサシャが、白のシュシュを手に取る。

「そもそも、サシャはシュシュでいいの?」

「はい。せっかくのお揃いですし、たまには普段と違うのもいいかなと」

「そう」

 二人でレジに向かい、それぞれのシュシュを買う。雑貨屋を後にして、また歩き始めた。

「ではミカサの髪を結いましょう! どこでやりますか?」

「うちでやろう。近いから」

「そうですね。ではお邪魔します。ミカサのおうち久しぶりですね」

「そう?」

 ミカサが首を傾げる。

「前に来たのいつだった?」

「半年は前だったと思います」

「そんなに経つだろうか」

「経ちますよ」

 そんなとりとめのない話をしているうちに、ミカサの自宅に辿り着く。中に入ると、ミカサの母がキッチンに立っていた。

「お帰りなさい、ミカサ」

「ただいま」

「お邪魔します!」

「あらサシャちゃん、いらっしゃい。お久しぶりね」

「はい、お久しぶりです!」

 ミカサがサシャの背中を押す。

「とりあえず、部屋に行こう。お母さん、さっきハンバーガーを食べてきたから、お菓子は出さなくていい」

「分かった。でもお茶くらいは飲みなさい。暑かったでしょう?」

「すっごく暑いです。のどカラカラですよ」

「サシャ」

 ミカサの母が笑って、食器棚からグラスを二つ出す。それぞれに氷を入れて麦茶を注ぎ、ストローを差した。

「ありがとう、お母さん」

「ありがとうございます」

 二人がグラスを手に持つ。

「あら、それくらいお母さんが運ぶわよ」

「その必要はない」

「そうです。自分で持ったほうが早いですよ」

 ミカサの母が苦笑した。ミカサがキッチンを出るのを、サシャがお辞儀してから追いかける。二人で階段を上がり、部屋に着いた。ミカサが扉を開けてサシャを部屋に入らせ、自身も足を踏み入れる。

「適当に座って」

「ベッドに座ってもいいですか?」

「前もベッドだったでしょう?」

「そういえばそうでした」

 サシャがストローで麦茶をすする。

「机お借りしますね」

 グラスを机に置いた彼女が、ベッドに腰を下ろした。ミカサもグラスを置いてブラシを持つ。サシャの隣に座り、買ったシュシュを取り出した。

「自分でもできないことはないけど」

 ミカサがブラシを差し出す。

「お願いしても」

「お安いご用ですよ!」

 サシャがそれを受け取った。ミカサの髪を掬い、ブラシでとかしながら高い位置で束にまとめる。えんじ色のシュシュを手に取り、まとめた髪をくくった。

「できましたよ!」

「ありがとう」

 ミカサが白いシュシュを手にする。

「サシャも着けよう」

「あっ、ヘアゴムの上からでいいですよ」

「分かった」

 ミカサがサシャのポニーテールを掬い上げ、ヘアゴムの上にシュシュを装着する。

「はい」

「ありがとうございます! あっ、せっかくなので」

 サシャがスマートフォンを取り出した。

「記念に写真を撮りましょう!」

 ミカサの腰が引く。

「そういうのはいい」

「なに言ってるんですか。似合ってますよ、ミカサ」

 サシャがカメラアプリを起動し、スマートフォンを構える。

「もっと寄ってください。ほら笑って」

 画面に映る同じ髪型の二人に、ミカサの頬が熱くなる。

「なんだか、こうして見ると照れくさい」

 サシャが笑い声を立てた。

「ミカサでも照れることあるんですね」

「それくらいある」

 サシャがミカサに身体を寄せる。

「ミカサ、スマイルですよスマイル!」

 ミカサがまた画面を見る。少し赤い頬の自分がおかしくて、口元が緩んだ。サシャが撮影ボタンを押し、画面をミカサに向けた。

「ほらミカサ、かわいく写ってますよ」

 満面の笑みを浮かべたサシャと、照れながらはにかむ自分。恥ずかしさはあるが、嬉しい光景だ。

「かわいいかは分からないけど」

「かわいいですよ」

「サシャの笑顔には負ける」

「そんなことないですって」

 視線の先で、サシャのポニーテールが揺れる。

「それにしても新鮮ですね、ミカサのポニーテール。どうですか、少しは涼しくなったでしょう?」

「うん」

「じゃあ寒くなってくるまで、しばらくお揃いでいましょう! せっかくシュシュも買ったんですし、一回で済ますのはもったいないですよ」

「しばらく」

 ミカサが、ポニーテールで登校する自分を想像する。学校に来れば、白いシュシュで髪を束ねたサシャもいる。最初は周りにいろいろ訊かれるだろうし、少しからかわれるかもしれない。だが、悪い気はしない。

「うん、そうしよう」

 ミカサがうなずく。サシャが満足そうに笑って、スマートフォンに目を落とした。

「ミカサ、さっき撮った写真LINEで送りますね」

「うん」

 サシャがスマートフォンを操作して、LINEのトーク画面で写真を送信する。鞄の中から通知音が聞こえ、ミカサがスマートフォンを取り出した。

「サシャ」

「なんですか?」

「グループに送ってる」

「えっ!?」

 サシャが画面を見る。

「本当ですね」

 ミカサも自分のスマートフォンの画面を眺めていると、通知が次々に届き始めた。写真を見た友人たちによるものだ。前世では共に戦ったり、敵対したり、いろいろあった彼らからのメッセージに、ミカサが少し笑った。なんと平和で、幸せな光景なのだろう。

「ミカサ。なんだかえらいことになってますけど、これどうしましょう。なに笑ってるんですか」

「笑えと言ったり、笑ってることに文句を言ったり、サシャは忙しい」

「もう、そういうこと言ってないでミカサもどう対処するか考えてくださいよ」

「間違えたのはサシャ」

 サシャが眉尻を下げる。この程度のことで慌てていられるなんて、本当に平和だ。

 サシャのポニーテールがまた揺れる。自分のポニーテールも、同じように揺れているのだろう。そう考えると、ミカサの胸が温かくなった。

 

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update 2018/9/24