最強のヒロイン | Of Course!!

最強のヒロイン

演劇部コンビのパロっぽいものです。さすがにミカサは男の子に見えないので、その辺は変えてます。

 

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 もうそろそろ、受験する高校を決めないといけない。それは分かっているが、どの学校を見ても決め手に欠けている。だがさすがに、中卒というのも体裁が悪すぎる。どうしたものだろうか。

 そんなことを考えながら、今日もまた受験先候補の高校へ足を運ぶ。その学校の文化祭を見るためだ。

 いくつか出店を見て回るが、これと言って惹かれるものはない。今回も外れのようだ。

 帰ろうかと思いながら歩いていると、体育館ステージでの上演項目が書かれた看板が目に入った。そこには、「演劇部『進撃の巨人』」という文字がある。時間を見ると、これから十分後に開演するようだった。

 何だろう。理由は分からないが、「巨人」という単語を見ていると落ち着かない気分になる。既に忘れてしまった遠い過去が呼び起こされようとしているような、妙な感覚だ。

 他に用事があるわけでもないのだし、帰る前にこの劇くらいは観てみよう。それくらいの軽い気持ちで、私は体育館に入って行った。

 十分後に始まった劇は、壁に囲まれた世界の中で生活する人々が、壁の外にいる「巨人」と戦いながら自由を求める様子を描いたものだった。高校生のオリジナル劇としてはあまりにストーリーの完成度が高くて、とてもフィクションとは思えない。だがそう感じた理由はきっと、脚本のせいだけではない。

「この戦いが終わったら、お前に言いたいことがあるんだ」

 主役の男性が、黒髪の女性に熱く語りかける。頷いた女性に、男性が優しく微笑んだ。彼の笑顔を見た瞬間、なぜか懐かしい気分になる。

 この劇の真実味を強めているのは、主役の熱演だ。他の演者に比べて、明らかに芝居が上手い。とても感情が籠っていて、演技だとはまるで思えない。

 気が付けば私は、ずっと主役の男性を目で追っていた。彼の金の瞳に魅入られてしまい、彼から視線を逸らせなくなった。それと同時に、決意する。

 私、この学校に――彼のいる演劇部に入ろう。

 

 

 桜が一面に咲き乱れる四月。晴れて私は志望校に受かり、高校生となった。中学時代の知り合いはほとんどいないが、後悔はしていない。誰より、会いたい人がいるから。

 しかし今のところは、演劇部の部室も何もかも知らない。まずは部活動の紹介を見て、それから見学に行ってみよう。

 入学式の終わった校内を歩きながら、空を見上げる。桜の花びらが散っていて綺麗だ。

 周りを見ていると、既に部活動の勧誘を行っている上級生もいるようだった。随分と気が早い人もいるものだ。

「なあ、そこのお前」

 背後から聞こえた声に振り返る。そこにいたのは、文化祭の劇で主役を演じていた男性だった。あの時と同じ金の瞳が、私を捉えている。

「お前、入る部活は決めてるか?」

「……えっ?」

 なぜいきなり、そんなことを訊かれるのだろうか。

「まだだったら、演劇部に入らないか」

 男性が近づいてくる。私の手を握って、目を見つめてきた。

「お前なら、演劇部で最強のヒロインになれるぞ」

 彼を見つめ返しながら、何度か瞬きをする。

「最強の、ヒロイン?」

 それは、どういう意味での最強なのだろうか。そう考えたところで、文化祭での劇を思い出す。あの劇では確か、ヒロインも雄々しく戦っていた。あの劇のような、戦うヒロインが出てくる劇の多い部活なのかもしれない。

「ピンと来ないのも分かる。だが、オレはお前にぜひ入部してほしいんだ」

 どういうことなのだろう。私がこの人を意識して、この人を追って同じ学校に入学したはずなのに、逆に私が勧誘を受けているなんて。だが私は、最初から演劇部に入るつもりで入学したのだからむしろ、

「分かりました。あなたの言うことを真に受けて入部します」

 彼の手を握り返すと、その表情が目に見えて明るくなった。あの重い内容の劇では見られなかった顔だ。これを見れただけでも、充分かもしれない。

 

 

「エレン先輩。本当に劇には出ないんですか?」

 のこぎりで木の板を切る彼に、声をかける。

「ああ。前はオレが主役をやらせてもらうことが多かったけど、お前をヒロインにしたら、同じ身長のオレが並んでも映えないだろ」

「だったら、私をヒロインにしなくても」

「オレの勧誘を真に受けるって宣言した奴がなに言ってんだよ」

 エレン先輩はそれだけ言うと、またのこぎりを動かし始めた。こんな風に大道具を作る先輩は、とても楽しそうだ。

 でも、そうじゃない。私は、エレン先輩の演技が見たい。できれば、先輩と共演したい。

 エレン先輩が顔を上げる。先輩を見たまま固まっている私に訝しげな顔をして、

「何やってんだ。お前は次の劇の重要なヒロインなんだから、台本でも読み返しとけ」

「それは、分かってます」

 そうだ。入部してから何度も、私はヒロイン役を回してもらっていた。エレン先輩が、私をずっと推してくれていたからだ。だからこそ、私は彼に応えなければいけない。

 持っていた台本を握り締めて、エレン先輩を見る。

「先輩。次の劇を無事に演じきったら、私のこと褒めてくれますか?」

「演じきったらも何も、お前の演技に不安は感じてねえよ。普段は無愛想でぼけっとしてるからどうなるかと思った時もあったが、案外お前、演技はしっかりしてるしな」

 そう言う先輩は、私には視線ひとつよこさずに板を切り続けている。だが私には、その言葉で充分だ。

「任せてください、エレン先輩。私が無事に、次のヒロインも演じきってみせます」

「おー、頼んだぞ。お前はうちの花形だからな」

 今日は機嫌がいいのだろうか。先輩にこんなことを言われるのは慣れていなくて、むず痒い。

「ああ、あとミカサ」

「はい、何ですか」

「お前さ、最近、演劇部のヒロインってことで男どもに人気があるんだってな」

「……は?」

 首を傾げると、エレン先輩が溜息を吐いた。

「自覚ねえのかよ。まあいい。とにかくお前は、誰のものにもなるな。お前は、うちのヒロインだからな」

 不機嫌そうな顔をする先輩に、緩みそうな口元を台本で隠す。駄目だ、笑ってはいけない。エレン先輩に怒られる。それは分かっているのだが、やはり嬉しい。

 あの劇であなたを見つけた瞬間から、あなた以外の人は見えていないのに。

「はい、先輩。分かっています」

 本当かと言いたげなエレン先輩の表情がおかしくて、私は台本を鼻元までせり上げた。先輩は不審そうな表情をしながらも、また大道具の制作に取り掛かる。

 安心してください、先輩。私はいつでも、あなただけのヒロインです。

 なんて思っても、当分は言えそうにもない。だが、それでいい。あなたが私を、ヒロインだと言ってくれるのなら。

 

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update 2014/8/31