名前を知りたい
リヴァハンですが、幼なじみ3人組がメインです。少しエレミカ要素あり。
幼なじみ3人組は全員高校生で、104期の年齢が1つ繰り上がってる設定です。
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「どの学校にも、七不思議ってあるけどさ」
金髪の少年が、本を見ながら口を開く。
「そのうちの一つが、リヴァイ先生のファミリーネームって、どうなんだろうね」
その言葉に、黒髪の少年と、同じく黒髪の少女が顔を見合わせる。
「確かに、古くから伝わる七不思議という感じはしない。この十年以内のものだろう」
「馬鹿らしい。そんなの、昔からずっと変わらずに伝わってるわけないだろ。どうせ七つ全部知ってる奴なんていねえし、毎年適当に中身が入れ替わってるんじゃないのか」
黒髪の少年の言葉に、金髪の少年が苦笑する。
「確かに、エレンの言う通りだろうね。でも他の七不思議が『夜になると階段が一段増える』とか、『誰もいないのに、第一音楽室のピアノから音がする』とかいうありがちなものだから、七不思議の中じゃ浮いてると思って。それに、ライナーが入学した頃にはもう、リヴァイ先生の名前は七不思議の一つだったらしいよ」
三年生である生徒会長の名前に、エレンと呼ばれた少年が眉を寄せた。
「なら、三年以上前から七不思議になってるのか。じゃあ、教職員紹介で一人だけフルネーム言わなかったのも、前からってことか?」
「名乗らないだけならまだしも、学校の広報誌にすらフルネームが書かれないのはなぜだろう」
少女の言葉に、エレンが目を丸くする。金髪の少年も頷き、
「さすがにそういうところで、フルネームを書かないのは妙だよね。だから七不思議になってるんだろうけど」
「広報誌って、何だ?」
今度は、少女と金髪の少年が目を丸くした。二人揃って溜息を吐く。
「たまに配られるじゃないか。学校の写真とか、部活動の実績とか載ってる紙が」
「エレンは読んでないだろうとは思っていたが、存在自体を分かっていなかったとは」
「い、いいだろ別に。今はそんなに重要じゃないし」
「そうだね。重要なのは、リヴァイ先生がここまで徹底的に自分の名前を伏せる理由だ」
三人で顔を見合わせ、同時に頷く。
「調べてみようか」
「しかし、具体的にどうやって」
「知ってそうな人に訊いてみればいいんじゃないかな。エルヴィン先生とか、ハンジ先生とか。本人に訊いても、教えてくれるとは思えないし」
金髪の少年の言葉に、残りの二人も賛成した。
「じゃあ、ミカサはハンジ先生に訊いてもらってもいいかな。同性同士の方がいいと思うし」
「分かった。アルミンはエルヴィン先生に?」
「うん、そうするよ」
ミカサと呼ばれた少女と、金髪の少年――アルミンが、向き合って話す。そんな二人を見ていたエレンは、
「オレ、リヴァイ先生本人に訊いてみようかな」
ミカサとアルミンが、再び溜息を吐いた。
「エレン。本人に訊いても話してもらえないだろうから、他の人に訊こうって、ついさっき話したばかりだろ」
「そうは言っても、もし本人から聞けたら、その方が早いだろ」
「確かにそう。だがそんなことを考えるから、エレンは死に急ぎなんて言われる」
ミカサの指摘に、エレンが「それを言うな」と不機嫌な顔をする。アルミンは、諦めたように肩をすくめた。
「じゃあ、エレンはそうしたら? いい結果は期待できないと思うけど」
「何だよそれ」
「ではまた、それぞれ確認した結果を報告し合おう。期限は決めた方がいいだろうか」
「それは、別にいいんじゃないかな。話を聞けたら、メールであとの二人に報告って感じでいこう」
アルミンが提案し、エレンとミカサも頷く。
「今日はもう遅いし、明日からにしようか」
「それがいい。既に日がだいぶ傾いている」
「うわ、空すげー赤いじゃねえか。教室に何時間いたんだ、オレ達」
三人は、地平線の向こうへ沈みつつある太陽を見ながら、帰り支度を始めた。
本人に訊くと意気込んだはいいが、果たしてどう尋ねるのがいいのだろうか。
エレンはそんなことを考えながら、学校の中庭を歩いていた。現在は昼休みで、中庭で食事をとる生徒の姿も見られる。エレンは既に食事を終え、リヴァイを探しているところだ。
辺りの様子を伺いながら歩いていると、近くにいた女子生徒達の声が耳に届いた。
「リヴァイ先生とハンジ先生、今日も一緒なんだ」
「やっぱりお似合いよねー、あの二人」
女子生徒達の視線の先へ目を向けると、確かにリヴァイとハンジの二人がベンチに並んで座っている。二人とも弁当箱を膝に乗せ、食事をしながら会話をしていた。エレンのいる場所からでは声は聞こえないが、ハンジはとても楽しそうだ。リヴァイも、一見すると無表情ながら、満更でもない様子に見える。
(やっぱりあの二人は、付き合ってるんだな)
リヴァイとハンジのどちらも、交際していると表立って言ったことはない。だが、二人が恋人でないと思っている者は校内にいなかった。二人が一緒にいる時の、互いを見る愛おしげな瞳は、学校中の生徒――特に女子の憧れの的だ。ほとんど表情を動かさないミカサですら、羨ましそうに二人を見ていることがある。
(今は、話しかけられないよな)
二人を眩しそうに見つめたエレンは、その場を後にする。四階の渡り廊下から、リヴァイとハンジを見ていたミカサに、エレンは気が付かなかった。
エレンがリヴァイとハンジを見かけたのとほぼ同時刻に、アルミンは職員室にいた。彼は、パンを片手に宿題の添削を行っているエルヴィンに近づく。
「エルヴィン先生。少々お尋ねしたいことがあるのですが、いま大丈夫ですか?」
エルヴィンは不思議そうにアルミンを見て、赤ペンを机に置いた。
「アルミン? 珍しいな、君からの相談なんて。何か授業で分からないことがあったか? それとも、学校生活で悩みが」
「そうじゃないんです。その、リヴァイ先生のことで」
「リヴァイのことを? なぜ私に?」
「エルヴィン先生なら、ご存知かと思ったんです。リヴァイ先生のフルネームが何と言うのか、なぜ隠しているのか」
エルヴィンはアルミンを見たまま、自分の顎を右手でなぞる。
「知らないことはないが、私の口からは言えないな。リヴァイに訊いてみてくれないか。君に話してもいいことかどうか、彼自身が判断するだろう」
「そう、ですか。ありがとうございます。お忙しいところ、申し訳ありませんでした」
「いや、また何かあったら遠慮なく来るといい。私にできることであれば、力になるよ」
「分かりました」
アルミンは微笑んで、エルヴィンに会釈する。アルミンが職員室を後にしたのを見て、エルヴィンは赤ペンを手に取った。
アルミンは廊下を歩きながら、考え込んだ。
(知ってるのに、言えない? そんなに重大な秘密があるのか?)
しかし、あまり考え込んでも仕方がない。アルミンは携帯電話を取り出し、右手の親指でメールを打つ。二人の幼なじみへメールを送信し、頬を膨らませた。
(あんな言い方されたら、余計に気になるよ)
「ごめんなさい。私はまだ訊けていない」
眉を下げるミカサを、アルミンが励ます。ミカサはアルミンへ礼を口にして、
「ハンジ先生は、リヴァイ先生と一緒にいることが多い。昼休みや放課後に話をするのは難しいだろう。なので、生物の授業が終わってすぐが正念場だと思う」
「そうか。今日はハンジ先生の授業があったね」
「頑張る」と意気込むミカサに、口元が緩んでいることに気が付いたエレンは、右手で口を隠す。意外と感情表現が分かりやすい彼女を、愛しく思う気持ちがエレンにはある。だが、幼なじみという距離感から、気恥ずかしくて本人に言ったことはなかった。
(リヴァイ先生とハンジ先生が羨ましいのは、オレもだな)
あの二人はあんな風に堂々と、恋人同士として一緒にいるのだから。果たしてミカサは、あの二人を見ている時に、どんな気持ちなのだろうか。
視線を動かすと、ミカサと目が合った。照れた様子で顔を逸らすミカサに、エレンは口を尖らせた。
(何なんだよ。期待させんな)
初々しい幼なじみ達を見て、アルミンは微笑んだ。エレンとミカサが恋人同士になるのは、きっと時間の問題だろう。その時が来ることを、アルミンは楽しみにしていた。
それからいつも通りに授業を受け、三時間目の生物の授業を待つ。二時間目の授業が終わって五分後、教室に現れたハンジを見たミカサは、身体を固くした。そんな彼女の様子に気づいたエレンとアルミンは苦笑する。さすがにミカサは緊張しすぎだ。
ミカサの様子に気が付く様子もなく、ハンジは授業の準備を進め、チャイムと同時に授業を始めた。
授業が終わり、教材を持って教室を出ようとするハンジを、ミカサが呼び止める。
「ハンジ先生に訊きたいことがあるんです」
「へえ、珍しいね。何なに?」
満面の笑みを浮かべるハンジとは対照的に、ミカサの表情は硬い。
「ハンジ先生は、その、リヴァイ先生のフルネームを知っていますか?」
ハンジはその質問に、悲しそうな表情を見せる。だがすぐに笑い、
「知ってるよ。何で隠しているのかもね。でも言わない。リヴァイが言いたくないのを、私が勝手に言うわけにもいかないからね」
「そうですか。分かりました。ありがとうございます」
お辞儀をするミカサに、ハンジは「ごめんねー」と明るく言い、教室を後にした。一部始終を見ていたエレンとアルミンは、互いの顔を見る。
「やっぱり、リヴァイ先生に訊いた方がよさそうだな」
「みたいだね。エレン、頼んだよ。リヴァイ先生から聞き出すのは大変だと思うけど」
「ああ。やれるだけやってみる」
エレンとアルミンの元へ、落ち込んだ様子でミカサがやってくる。二人はそんなミカサに、労いの言葉をかけた。
「オレが何とかするから」
「……本当に大丈夫なのだろうか」
「なに疑ってんだよ、お前は」
エレンは焦っていた。リヴァイの名前について探ることを決めてから一週間は経とうというのに、リヴァイが未だに捕まらないのだ。
期限を決めていないとは言え、何とかすると言ってしまった手前、このままでは恰好がつかない。何とかして、リヴァイから名前について聞き出さないといけない。
放課後の校内を歩いていると、中庭にある人影に気が付いた。よく見るとそれはリヴァイで、何かを探すように辺りを見回していた。
「リヴァイ先生、探し物ですか?」
「ああ、エレンか。いや、別に大したもんじゃねえ。三十分くらい経ってるが見つからないし、明日探す」
「そうですか」
肩を鳴らすリヴァイを見ながら、エレンは考える。もしかしなくてもこれは、チャンスではないのか。
「リヴァイ先生。先生に訊きたいことがあるんですが、いいですか?」
リヴァイがエレンへ、訝しげな視線を向ける。
「お前が、俺に? 珍しいこともあるもんだな。まあいい、言ってみろ」
「はい。あの、リヴァイ先生はなぜ、フルネームを名乗らないのですか?」
リヴァイの眉間に、しわが寄る。そんなにまずいことを訊いたのかとひるみそうになったが、エレンはリヴァイから目を逸らさなかった。
「俺の名前が、この学校の七不思議だとか言われてるのは知っている。訊いてこないだけで、気になってる奴は多いんだろう」
少なくとも三年以上は七不思議に入ってるのに、今まで誰も訊かなかったのか。意外に思うエレンに、リヴァイが頭を掻いた。
「いいだろう。直々に訊いてきた度胸に免じて、教えてやる。俺の名前を」
「えっ、本当ですか?」
エレンは、一気に脱力する。こんなことなら、さっさと訊いておけばよかったのだ。
「俺のフルネームは、リヴァイ・ゾエと言う」
リヴァイの言葉に、エレンは目を見開いた。
「ゾエって言うと、その、ハンジ先生と同じ」
「ハンジは、俺の妹だ。あまり似ていないが、同じ両親から生まれている」
「いもう、と」
リヴァイの言っていることを、エレンは理解できなかった。正確に言うと、理解したくない。なぜなら、リヴァイとハンジが互いを見る時の表情は、とても兄妹のものではないからだ。二人は、男女として愛し合っているようにしか見えなかった。
「でも、お二人は、付き合ってるんじゃないんですか?」
「……そういう感情はある。互いにな。だから、ハンジと同じファミリーネームなんて名乗りたくねえ。自分のフルネームなんて、見たくもない」
リヴァイの表情は、一見すると普段通りの仏頂面だ。だが、その瞳には悲しげな色があり、エレンは息を飲んだ。
「広報誌にも、フルネームが載ってないのは」
「あれはPTAが作ってるものだ。役員の奴らが俺のフルネームを知らないから、書けないだけだろ」
「そう、ですか」
血の繋がった家族と愛し合ってしまうというのは、どういうことなのだろうか。どれほどの絶望を覚えるものなのだろうか。エレンには分からない。あんなに幸福な恋人同士に見える二人が、どれだけの痛みを抱えているのかも。
「嫌なことを訊いてしまって、すみませんでした」
「別に、構わねえ」
そう呟くリヴァイの暗い顔に、エレンの胸は痛んだ。
(ミカサやアルミンに、どう伝えればいいんだ)
そんなことを気にしてしまった自分が、心底嫌だった。
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update 2014/2/13