歪んだ二人
何度も生まれ変わって何度もミカサを失って病んだエレンと、状況に疑問を覚えつつもエレンから離れられないミカサ。谷山浩子さんの「王国」イメージのつもりですが、何か違う気がします。すごく暗いです。
微妙に人食ってるので(文字通りの意味で)、苦手な方はご注意ください。
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一回目は巨大な化け物によって、虫のように叩き落とされて死んだ。
二回目には化け物はいなかったが、人間離れした強さに、魔女の疑いをかけられて火刑に処せられた。
三回目は、治療法の分からない流行病に侵されて命を落とした。
四回目には、神話に出てきたような大波に流されていった。この命が尽きるまでその身体を探したが、最期まで見つけることはできなかった。もし見つけられたとしても、元の姿を留めてはいなかっただろう。どうして、オレは一緒に流されなかったんだろうな。
五回目以降は、どうだっただろうか。もう、思い出せない。あまりにも失いすぎて、分からなくなってしまった。
全て、一番大切な少女の死に方だ。何度も生まれ変わって、何度も出会い直して、その度にオレは彼女の死を見た。かつて「死に急ぎ野郎」なんてあだ名を得たことがあるオレだが、なぜか彼女より先に逝ったことはなかった。
ある意味では、よかったと思う。自惚れのようだが、オレが死ねば、きっと彼女は悲しむ。オレのせいで、彼女を泣かせることにならなかったのは救いかもしれない。オレが知らないところで、彼女が涙したこともあった可能性は否定しないが。
でも、納得できない。彼女はオレが知る限り、ただの一度も天寿を全うしていない。得体の知れない怪物であったり、同じ人間であったり、天災であったり、とにかくあらゆるものに彼女はその命を奪われてきた。オレはもうこれ以上、彼女を何かに蹂躙されたくない。
だから、今度は彼女をどこにもやらない。危ない場所へ行かせたりしないし、オレ以外のものに攫われることなんて、あってはならない。二人だけで、ずっと一緒にいよう。共に過ごす時間が例え偽りでも、構わない。
今回こそは、最期までずっとずっと一緒だからな、ミカサ。
「ねえ、エレン。今って、いつなの?」
黒髪の少女が、オレを見る。妙な質問をする奴だ。
「いつって、どういうことだ」
「だって、ここにはカレンダーも時計もない。昼か夜か、夏か冬かくらいは何となく分かるけど、それだけ。ここに来てから、何年が経ったの? 私、自分がいま何歳なのかも、分からない」
「そんなことどうでもいいだろ、ミカサ。大事なのは、お前もオレも、こうして揃ってここにいるってことだけだ」
虚ろな目をする少女――ミカサに、微笑みかける。彼女の真っ白な首元に吸い付くと、小さく声が上がった。
「ミカサ、お前は何も知らなくていいんだ。ただここで、オレと一緒にいてくれさえいれば」
「どうして? 私は、観賞用の人形じゃない」
「知ってるよ。だってもう何回もお前に触れて、お前を抱いてるんだから。お前がとても熱く蕩けた身体の、女だってちゃんと分かってる」
ミカサの頬が赤くなった。かわいい奴だ。
「なあ、ミカサ。お前、オレに抱かれるの好きだろ? 今夜も、たくさん愛してやるからな。何なら、今からでも」
「はぐらかさないで」
赤い顔のままで、ミカサがオレを睨む。
「私が何度訊いても、ここがどこかも教えてくれないのは、どうしてなの」
「どうしてって。そんなの、知る必要があるのか?」
「自分がいる場所もろくに分からないまま、ずっとここにいる私の身にもなってほしい。何も知らないのは、ものすごく怖い。私はここに座ったままなのに、エレンはたまに外に出て行く」
そんなことを言って、お前は外に出る気もないんだろ? オレはお前に、足枷をしているわけじゃない。ただ、この宝玉で出来た玉座に、座らせているだけだ。ここから動かないのは、お前自身の意思だ。
「仕方ないだろ。オレだってお前と離れたくねえ。でも、食う物を調達してこないと死んじまう」
「調達と言っても、どこから持ってくるの? 初めてここに来た時、近くに森があったのを記憶しているから、肉も木の実もそこで獲ってきているだと思う。だけど、たまに自生していなさそうな野菜が混じっている。ましてや洋服なんて、どうしているの」
「お前が知る必要はない」
「結局、いつもそれだ。どうして、教えてくれないの?」
ミカサの唇にキスをする。細い身体を抱き締めると、震えた手が背中にしがみついてきた。
何も知らなくていいんだ、ミカサ。ここにあった時計は全て、オレが砕いて地下に捨ててしまったことも。ここにいた奴らは全て殺して、奴らから奪い取る形でこの城に住んでいることも。奴らの肉がとっくに、オレ達の胃袋に収まっていることも。たまにオレが持ってくる肉の中に、獣以外の物が混じっていることも。獣以外の肉と一緒に、野菜や洋服も盗ってきていることも、全て。
ミカサが見なくていいようなものは、全て地下に閉じ込めた。お前は、太陽の光が差し込むこの広間で、この玉座に座っていればいい。
顔を離して、ミカサの手を引く。窓際まで歩み寄って、
「ほら、ミカサ。お前の好きな花が咲いているぞ」
「……うん」
「綺麗だろ、ここは。ここでこうして二人でいられたら、幸せだと思わないか」
風に揺れる花を見ながら、ミカサが考え込んでいる。でも、考えたって無駄だ。お前は結局、ここにいることを選ぶんだから。オレに触れられるのを受け入れている時点で、語るに落ちているんだ。
「ミカサ」
薄い肩を抱く。ミカサがオレにもたれ掛かり、綺麗な黒髪がオレの頬に当たった。
「うん、そう思う。エレン」
オレに身を寄せるミカサを見ていると、一回目に出会った時のミカサを思い出す。あの時は全てを一度に失って震えていた彼女も、何年かすると、鮮やかに宙を舞って化け物を狩っていた。まるで、翼でも生えているかのように、空中の彼女は自由だった。
彼女の翼をもぎ取るようにここに閉じ込めていることを、後悔はしていない。だって、決めたんだ。今度こそは、彼女が先にいなくなったりすることがないようにすると。
もし失敗したとしても、きっとまた生まれ変わって、また出会って、ずっとお前の傍にいる。
永遠に、オレは繰り返すだろう。お前を愛しているから。お前だけを、愛し続けているから。
額に口づけすると、ゆっくり目を閉じたミカサが、ただとにかく愛おしかった。
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update 2013/8/12