彼女らのひととき | Of Course!!

彼女らのひととき

「よかったの? エレンを置いてきて」

 ビールを飲みながら訊くと、ミカサが牛乳の入ったコップを呷り、

「エレンは、アルミンを誘って男子会をすると言っていた。恐らく、中身はただの飲み会になると思う」

「そうなんだ。アルミンが潰れないといいけど」

 「アルミンは酒に弱いから」と呟くと、ミカサが笑う。

「アニは心配性」

「そうかな。こっちは戦闘機で向こうがサクリファイスって関係上、気にするのも仕方がないと思うけど」

「確かに。もしサクリファイス一人の状態で言語闘争を挑まれれば、太刀打ちできない」

「まあサクリファイス一人にペアで挑もうなんて奴がいたら、そいつらはまともに戦う気ないと思うけどね。最初から、戦闘機に邪魔されない状態でサクリファイスを潰すつもりだよ」

 フライドポテトを摘む私に、ミカサが頷く。

「第一、それは戦闘ではない。リンチだ」

「そうだね。そういう手段を取るような、プライドのないペアはそうそういないと思うけど」

「もっとも、自分のサクリファイスに何かあれば、離れていてもすぐに気がつく。ので、大きな問題はない」

「どれくらい離れているかにもよるんじゃないの、それ」

 ミカサもフライドポテトを口にして、牛乳を飲む。いくら酒が飲めないと言っても、何で牛乳なんだろう。

「ところでアニ。前から聞きたいと思っていたことがあるのだが、いいだろうか」

「答えられることなら」

「アニはお父さんから言語闘争のことを教わったと言っていたが、戦い方についてはどういう風に教わっていたの」

 お腹いっぱいと言うように、ミカサがテーブルに頭を載せる。牛乳を馬鹿みたいに飲みまくってるからそうなるんだ。

「別に、言葉には気をつけろってそればっかり。あんたの言ってたイメージがどうとか、聞いたことなかった。でも周りの噂によると、すごく強かったらしい」

「そう。もしかしたらアニのお父さんは、とてもイマジネーションが強い人だったけど、あまりにも自然にイメージを描けすぎて、自覚がなかったのかもしれない。強いイメージを描けることは普通のことであって、わざわざ敢えて言うようなことでもないと思っていたとか」

「どうかな。その辺りは、本人に聞かないと何とも言えないけど。ただ私達は基本的に、言語闘争の経験がある身内から教わって戦うっていうのが多いじゃない? だから教えてくれる人間が知らないことは、私達も知らない」

 ビールを飲む私を見ながら、ミカサがフライドポテトに手を伸ばす。まだ食欲あったのか。

「それは、確かに。エレンは、日本には戦闘機の学校があるとおじさんから聞いた、と言っていたが」

「ああ、私も日本での言語闘争事情について聞いたことある。確か、幼なじみのライナーが言ってたんだったかな。独自の言語と関係あるのかは分からないけど、日本はやけにペアの数が多いらしいって。戦闘機やサクリファイスのことを研究してる奴らもいるとか言ってたっけ」

「そう。もし日本にいたら、きちんと戦い方を学ぶ機会もあったのだろうか」

「そうかもしれないね。ドイツじゃそういうのは聞かないけど」

 そもそもミカサは、自己流でも充分強いし。

「時にアニ。アルミンへの気持ちがどういうものか、はっきりした?」

「いや、まだだよ。大体、焦らなくていいって言ったのはミカサでしょ」

「そうだった」

 ミカサが身体を起こし、コップに口をつける。まだ牛乳を飲む気なのか。

「もうやめなよ、ミカサ。見てるこっちの方がお腹痛くなる」

「問題ない。私のお腹は頑丈。牛乳を一度に二リットル飲んでも平気だった」

「二リットルって。どんだけ牛乳好きなの、あんた」

「特別好きというわけではないが、牛乳をたくさん飲めば胸が大きくなるかと思って」

 ビールを飲み始めたところで言われ、むせてしまった。ミカサが私の背中をさすってくる。

「大丈夫?」

「いやまあ、大丈夫だけど。何、胸?」

 ミカサの胸元へ視線を向ける。巨乳ってほどでもなさそうだけど、そこそこの大きさはあるように見える。

「エレンって、巨乳好きなの?」

「いや、エレンは『大きさなんて関係ない。大きくても小さくても、ミカサの胸は綺麗だ』と言ってくれる」

「あ、そう。それはごちそうさま」

「しかし、胸は大きい方がいろいろできると思う。ので、もっと大きくしたいと思っている」

「胸を使って何をするつもりか知らないけど、今の大きさでも充分できるんじゃないの?」

 ミカサはコップを手でいじりながら、「そういえば試したことがない。今度やってみよう」と呟きだした。胸を使ってエレンに奉仕するミカサを想像しそうになり、ビールを飲んでごまかす。

「そういえば、他にも聞きたいことがあった」

「何?」

「アニの幼なじみ二人も戦闘機ということだが、その二人はもうサクリファイスと出会っているの?」

「ああ、会ってるよ。あいつらのサクリファイス同士が仲いいんだ」

 ライナーのペアとベルトルトのペア、それにアルミンと私というメンツで集まったことが、一回だけあった。ライナーとベルトルトがアルミンを値踏みするように見ていたから、どついてやったのを覚えている。

「どういうペアなの?」

「ライナーもベルトルトも、サクリファイスは女子だよ。ライナーのサクリファイスは、ふわふわしてて、女子っぽい子。ライナーと並んでいると、美女と野獣って感じ」

「少し見てみたい」

「ベルトルトのサクリファイスは、そばかすが印象的で、ちょっとがさつかな。ライナーのサクリファイスのこと、気に入ってるみたいだった」

 フライドポテトを二人揃って摘んだところで、皿が空になる。

「ちょっと待ってて。ミカサが持ってきたソーセージ焼いてくる」

「ごめんなさい」

「気にしないで。私の家なんだし」

 空いた皿を持って、キッチンへ向かう。どうしてミカサは言語闘争に強いのに、こういう時は「ありがとう」の方がいいってことが分からないのかな。

 まあ多分、エレンって奴からすれば、そういうとこもかわいいんだろう。私にはいまいち理解できないけど。日本人流に言うと、萌え属性ってやつだろうか。

 ソーセージをフライパンに載せ、コンロで焼き始める。最初にミカサと飲んだ時に持ってきてもらったこのソーセージは、私が気に入ったからか、毎回持ってきてくれる。ミカサ曰く、エレンが好きなソーセージで家に常備しているそうだから、今回の男子会とやらでも振る舞われているのかもしれない。

 焼き終えたソーセージを皿に載せて、ミカサの元に向かう。懲りずに牛乳を飲み続けるミカサの前に皿を置き、腰を下ろした。

「ミカサってエレンと同じ身長なんだっけ。牛乳じゃそんなに背が伸びないって本当なんだね。もし牛乳が背を伸ばすのに有効だったら、あんたはとっくにエレンの身長を抜かしてるんじゃないの」

「そうかもしれない。しかも私は成長のピークを通り過ぎたが、エレンはまだ成長期。最終的にはエレンの方が背が高くなるはず」

「私も背を伸ばそうとして牛乳ばかり飲んでた時があったけど、お腹を壊してすぐにやめたよ」

「アニの胃袋は繊細」

「あんたのが特別頑丈なだけだよ」

 ミカサが照れた様子で、「それほどでも」と頬を掻く。別に何一つ褒めてないんだけど。

「もう牛乳はいいでしょ。今のままの胸で何かするつもりなら」

「確かに。さすがにお腹いっぱい」

 ソーセージに見向きもせず呟くミカサに、溜息を吐く。こうして一緒に飲んだりしてるうちに分かってきたことだけど、ミカサは意外と抜けてるところがある。

「アニを見ていると、身長はあまり伸びる必要がないのだと思う」

「どうして」

「アニとアルミンが並んでいると、絵になる。やはり、男女は身長差が多少ある方がいいと思う」

「そうかな。まあ、いいんじゃないの。あんたもそのうちエレンに身長を抜かされて、身長差ができる予定なんでしょ」

「予定は未定」

 ソーセージを一本フォークで刺し、一口かじる。やっぱりおいしい。

「ねえ、アニ。さっきの、アニの幼なじみ達の話をもう少し聞かせてほしい」

「何で」

「私には幼なじみというのがいないので、気になって。エレンも、幼なじみと言うには出会ったのが遅い気もするし」

 ビールを飲み、ジョッキをテーブルに置く。

「そんな大したもんじゃないよ。ただ昔から面識があるってだけで。あいつらが自分のサクリファイスとどう接してるのかなんて、詳しく知らないし」

「そうなの? 彼らがサクリファイスと一緒にいるところを、見たことがあるのでしょう?」

「ちょっとだけだよ。まあ少なくとも、ライナーは自分のサクリファイスにベタ惚れって感じだったけど。名前は確か、クリスタだったかな。ベルトルトのサクリファイスが、ユミルだったと思う」

 一回しか会ってないから、うろ覚えだけど。

「ライナーもベルトルトも、悪い奴じゃないよ。ただ、ベルトルトは気が弱いのが難点だね。ユミルとやらがずばずばと物を言うタイプみたいだから、かなり尻に敷かれてそう」

「性格が逆よりはいいと思う」

「確かに。もし逆だったら、ベルトルトが指示を無視して戦って、ユミルがおどおどするって感じになるかも」

 正直、そんな光景は想像がつかない。

「さっきの話と被るけど、サクリファイスは自分じゃ言葉で戦うことができないから、戦闘機に暴走されると実は結構困るんだよね」

「そう。だから、エレンがサクリファイスの方がえらいとは考えないのも分かる」

「いや、それは別の理由なんじゃないの」

 ミカサは不思議そうに首を傾げた。いや、分かるでしょ。エレンとラブラブなんだったら。

「アルミンも、サクリファイスの方が優位だって考え方は嫌いな人間だ。でも、こうして考えていると分かる。アルミンはサクリファイスだから、自分じゃスペルを使えない。だから、私を立てた方がアルミンにとって得なんだ」

 何を言ってるんだろう、私は。アルミンがサクリファイスと戦闘機の間に優劣をつけたくないと言ったのは、そういう意図じゃないのに。

 案の定、ミカサがじと目で見つめてくる。「ごめん」と言うと、ミカサが溜息を吐いた。

「それは、アルミンに言うべき」

「分かってるよ」

「アニ。アルミンと両思いになったら、すぐに教えてほしい。私とエレンで、精一杯祝福する」

「気持ちは嬉しいけど、アルミンとはそういうのじゃないから」

 もしかしたら、時間の問題かもしれないけど。でも今は、そういうのは考えられない。

「そんなことを言っていられるのも、今のうち」

 にやけているミカサを見て、私はジョッキのビールを飲み干した。

 

----------------

 

update 2013/11/24