彼らのひととき | Of Course!!

彼らのひととき

ドイツではビールやワインは16歳、蒸留酒は18歳からOKらしいです。

 

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「アルミンって言ったっけ。よし、一杯やるか!」

 ビール瓶を嬉しそうに持つ少年に、僕は苦笑を浮かべた。

「僕、十五なんだけど」

「オレも十五だぞ」

「じゃ、じゃあ駄目だよ! ビアホールでも十五歳じゃ保護者いないと飲めないよ!」

「真面目だな、お前。別にいいじゃねえか。近所の酒屋のおばちゃんだって、普通に売ってくれるし。飲んだことないわけじゃねえだろ」

「いや、よくはないと思うけど」

 彼が何を考えているのか、いまいちよく分からない。アニ曰く、どうやら僕は気に入られているらしいけど。

「あのさ。そもそも何で、君と僕の二人でテーブルに着いているのかな。しかも、君の家で」

「ミカサと、アニって言ったっけ? あいつらは二人で女子会ってやつをするらしいから、オレ達は男子会をやろうと思って」

「どういう発想だ」

「とにかくほら、まずは乾杯だ乾杯。後でジャーマンポテトとソーセージも用意するから」

「いつの間に開けたの!?」

 目の前に置かれたジョッキに、ビールが注がれる。少年――エレンも自分のジョッキに注ぎ、乾杯を要求してきた。

「……お酒はあんまり強くないんだけどな、僕」

「そこらのドイツ人で、ミカサより弱い奴はいないだろうから安心しろ。あいつ日本人とのハーフなんだけど、ジョッキ半分のビールで前後不覚になるんだ」

「東洋の方にはお酒飲めない人もいるって聞くけど、そんなに弱いの?」

「ああ。最初に見た時はびっくりしたぞ。まあ、ミカサが飲んだのはそれっきりだけどな」

 「それより飲もうぜ」とジョッキを掲げたエレンと諦めて乾杯し、ビールを飲む。進んで飲むことはほとんどないけど、おいしいとは思う。

「結構いい飲みっぷりじゃねえか。待ってろ、すぐにソーセージを焼いてやる」

 エレンが立ち上がり、キッチンに向かう。バジル入りのソーセージをフライパンで焼き始めると、香ばしい匂いが漂ってきた。

「いつもはミカサが焼いてくれるんだけど、今日はいないからな」

「そうなんだ。おつまみとか、いろいろ用意してもらってるの?」

「ああ。オレはずっと飲んでるし、ミカサの方が料理上手いし」

 エレンがソーセージをお皿に移し、運んでくる。

「いっぱいあるから、どんどん食え。すぐにジャーマンポテトも作って」

「いや、そんな次々に持ってこられても。まずはソーセージだけでいいんじゃないかな」

「そうか? まあ食え」

 エレンが差し出してきたフォークを受け取り、ソーセージに刺す。皮がパリッとしてておいしそうだ。

「ミカサとアニは互いの話を結構してるみたいだけど」

 ビールを飲み、エレンが口を開く。手を止めた僕に気にせず食べるよう促し、

「オレ達のことって、アニから聞いたりしてるのか?」

「ああ、うん。君達がどういう風に出会って、どんな経験を経て今に至るのかは大体」

 ソーセージを食べながら答える。肉汁がたっぷりで、すごくジューシーだ。この辺だとこんなおいしいソーセージが売られているのか。

「ミカサって子が、君にプロポーズされたって喜んでたらしいけど」

「そっか。やっぱミカサはかわいいな」

 緩んだ頬でエレンがビールを口にする。アニから聞いた話だけでも相当ラブラブなペアなんだろうとは思ったけど、本当にベタ惚れなんだな。戦闘機とサクリファイスの関係はそれくらいが理想的らしいけど、まだ僕とアニじゃ、当分こうはならないだろう。

「そういえばアルミンはさ、アニのことどう思ってるんだよ」

「どうって?」

「お前は割とオレみたいに、戦闘機だからとかサクリファイスだからとか、そういうの好きじゃないタイプみたいだからさ。どうなのかなーって」

 既に二杯目のビールを注いでいるエレンが、僕の顔を見る。

「アニのことは、好きだよ。初めて会った時、すごく綺麗な子だなって思ったんだ。アニに『もしかしてPAINLESSなの?』って訊かれた時はどきっとした」

「ふーん。アニの方がお前を見つけた感じか」

「そう。君達の場合は、君がミカサを見つけたんだっけ」

「ああ。ミカサはオレと会うまで、言語闘争のことは何も知らなかったからな」

 エレンがソーセージをかじり、ビールを口に含む。いつもこんなペースで飲み食いしてるのか、彼は。

「お前はどうやって、言語闘争のことを知ったんだ?」

「僕は、じいちゃんに言われたんだ。お前はサクリファイスだって。言語闘争のことも、戦闘機とサクリファイスについても、全部じいちゃんに聞いた。エレンは?」

「オレは両親から聞いた。両親も同じ名前のペアだったからな。アルミンのじいちゃんは、言語闘争にはどういう風に関わってたんだ?」

「どうやら、じいちゃんもサクリファイスらしいんだ。でも戦闘機は、ばあちゃんじゃなかったって言ってた。詳しくは知らないけど、じいちゃんはパートナーを早くに亡くしたみたいで」

「……そっか」

 エレンが二杯目のビールを飲み干す。飲むの早すぎだろ。

「瓶が空いたから、次の持ってくる。お前もちゃんと飲めよ」

「ああ、うん」

 空き瓶を手に、エレンが部屋を出て行く。彼の背中が見えなくなってからビールを一口飲み、息を吐いた。

 LIMITLESSの二人については、アニからいろいろと聞いているとは言え、エレンとまともに話すのはこれが初めてだ。なのにどうして僕は、アニへの気持ちとかじいちゃんのこととか、こんなに話してるんだろう。

 何だか分からないけど、エレンとは妙に話しやすい。彼の懐っこさのせいもあるのかもしれないけど、ずっと前から知っている友人と話しているような気分になる。

 ソーセージを食べていると、エレンがビール瓶を数本抱えて戻ってきた。「ミミ垂れてるぞ」と笑って、瓶をテーブルに置く。

「気に入ったか? そのソーセージ」

「うん。すごくおいしい」

「そうか。じゃあもう少し焼くかな」

 エレンがまたソーセージを焼き始める。いくらここが彼の家だと言っても、ただ食べて飲んでいるだけというのも申し訳ない。エレンにそう言うと、自分がホストだからと苦笑した。

「ところでさ、アルミン。オレ、一つ不思議なことがあるんだ」

「不思議なこと?」

「ああ。何か初めて会った時から、お前のこと、他人と思えないっつーか。初めて会った気がしなかったんだよ」

「そう、なんだ」

 エレンも、僕と同じことを感じていたのか。

「それでどうしてなのか考えてて、思い出したんだ。オレが言語闘争のことを知るきっかけになった奴のことを」

「そんな人がいるの? 話してくれたのは両親なんだろ?」

「そいつにさ、言われたんだよ。自分のじいちゃんが、オレのことをサクリファイスだって言ってるって。オレの両親に訊けば分かるはずだって。それで両親に訊いたら、もっと大きくなってから話すつもりだったって言って、教えてくれたんだ」

 どうしてそんなことを、僕に話すんだ。もしかして、まさか。

「金髪碧眼で、オレより少し背の低い、同い年の男だったよ。仲良くなってからそんなに経たないうちに引っ越していったし、名前も忘れてたけど、やっと思い出せた」

 エレンが僕の方を見る。フライパンをあおる手を止めずに、

「お前だよ、アルミン。お前が教えてくれなかったら、もっと状況は違うものになってたと思う」

 そんなこと、あっただろうか。確かに、以前は今と別の場所に住んでいた記憶はあるけど、この辺りだったっけ。

「もしあの時に教えてもらってなかったら、オレは言語闘争のことを知るのがもっと遅くなっていただろう。もしかしたら、ミカサともまだ会えてなかったかもしれねえ。そうなっていたら、ミカサは両親を亡くした後、一人で寂しさを抱えたまま過ごすことになってたと思う」

 エレンがソーセージを載せたお皿を、テーブルに置く。

「行き場をなくしたミカサを、すぐに見つけてやれてよかった。教えてくれてありがとな、アルミン」

「僕が、教えたから?」

「そうだ。下手したらオレは、両親がいなくなるまで、何も知らないままだった可能性もあった。もしそうなっていたら、ミカサと一緒にいる今もなかったんだ」

 そんな重要なことに、僕が関わっていた? 僕が彼らの運命を変えたと言うのか?

「ごめん、思い出せない。今の家に引っ越す前のことは、記憶があやふやなんだ」

 もう一度「ごめん」と呟くと、エレンは苦笑した。

「あまり気にすんな。オレも忘れてたし。とにかくオレは、お前に感謝してる。それだけだ。まあ、何か思い出したことがあったら言ってくれ」

 ビールを注いだジョッキを、エレンが呷る。僕もビールを飲んで、

「もしかして、僕達に戦いを挑んできたのって、僕と初めて会った気がしなくて気になったから?」

「それもあるし、本当にミカサがフラストレーション溜まってたんだ。別にミカサは好戦的なタイプじゃないし、普段はバトルをしばらくやってなくても何も気にしないんだけど、あの頃はやたらバトルを申し込まれてな。あまりミカサに戦わせたくないし断ってたけど、しつこい奴らばかりでさ。そのくせどいつもこいつもむちゃくちゃ弱くて、一分くらいで片がつくような戦いばかりだったんだぞ」

「それは、実力差ありすぎだね」

「そうやって半端に戦ってたもんだから、ミカサが不完全燃焼気味だったんだ。お前達と戦った後のミカサは、憑き物が落ちたみたいにすっきりした顔してたぞ」

 どうりで、何か鬱憤を晴らすような戦い方だったわけだ。

「悪かったな、憂さ晴らしに使ったみたいで」

「いや、別にいいんだけど」

 完全拘束されたのも初めてだったし、あれはあれでいい経験になった。だから、それについては構わない。

「でもできれば、君達に関する噂は事前に知っておきたかったな。そうすれば、もっと心構えも違ったんだけど」

「噂なあ。そういえば他にも、あの時期に挑んできた奴らって大概『お前らがあのLIMITLESSか!』とか言ってたけど、オレ達の噂ってどういうのなんだ?」

「えっ、知らないの?」

「あまり他のペアと深く関わることもなかったし」

 ソーセージを頬張りながらエレンがしゃべる。行儀悪いなあ。

「いろいろ言われてるけど、基本的にはすごく強くてやばいペアって感じの話だよ。戦闘領域がありえないくらい大きいとか、攻撃が早いとか、カウンターが得意だとか。まあ実際に戦った身からすれば、どれも合ってるって思うけど。中には血も涙もないような冷血漢だとか、根も葉もないことを言う人もいる」

「ふーん。まあ、会ったこともない奴にどう言われようが関係ねえけど」

「何だよそれ。自分から聞いといて」

 声を立てて笑った僕に、「悪い悪い」と笑いながらエレンがビールを飲む。

「そういえば。なあ、アルミン。お前さっきさ、アニのこと好きって言ったよな」

「うん、それがどうかしたの」

「アニとミミを落としたいって思ってんのか?」

 食べていたソーセージが気管支に入り、むせた僕の背をエレンが撫でてきた。

「大丈夫かー? アルミン」

「大丈夫かー、じゃないだろ! 何てことを言い出すんだ! これだから酔っ払いは!」

「まだほとんど酔ってねえよ。で、どうなんだ実際」

 ああ、楽しそうだ。すごく楽しそう。

「絶対言わない」

「何でだよ、アルミンのケチ」

「ケチでもいい。口が裂けても君には言わない。君に言ったらミカサに話しそうだから」

「心配すんな。ミカサは口が堅いから」

「ビールを三杯も飲んでる奴の言うことなんか信用できるかっ! そもそも、何でミカサに話す気満々なんだよ!」

 エレンはまだ食い下がってきたけど、僕が徹底抗戦の構えを見せると、文句を言いながら諦めた。

 そんなこんなで、男子会という名の飲み会は続く。

 

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update 2013/11/23