答えはまだ分からないけど | Of Course!!

答えはまだ分からないけど

ミカサが出張ってます。アルアニは恋愛未満です。

 

----------------

 

「アルミン、大丈夫? 立てる?」

 私の呼びかけに、アルミンは笑顔で頷く。差し出した手は握られることなく、彼が立ち上がった。

「完全拘束されたのは、今回が初めてだね」

「ごめん、私が」

「アニは悪くないよ。一生懸命、戦ってくれた。あんなに強い人達がいるなんて、びっくりしたなあ」

 「まあ、これも経験のうちだよ」なんてアルミンは笑っているけど、辛くないわけがない。さっきまで、全身が雁字搦めになって、地面に倒れ伏していたんだ。

 私達に戦いを挑んできた、LIMITLESSとか言う奴ら。あいつらはやばい。最初に会話した時、戦闘機の言語能力が覚束ないように感じて、油断していた。でも戦いとなると、シンプルかつ的確な言葉で、あっという間にアルミンを拘束していった。自分達は傷一つないまま、一切の容赦もなしに。

「アニ。君が何を考えているのかは、まあ何となく分かるけど、気にすることじゃない。僕が思うに、たぶん僕達自身も、自分達の特性について把握しきってなかったんじゃないかな」

「特性?」

「そう。PAINLESSって言葉には、何かを解決するのが困難じゃないって意味はあるけど、だからって無敵ってわけじゃないってことだよ。難しくはないというだけで、絶対できるなんて保証はない」

「……あんた、拘束されながらそんなこと考えてたの?」

 大した奴だ。私は拘束されたことがないけど、すごく苦しいだろうに。

 アルミンは苦笑し、ミミを寝かせながら溜息を吐いた。

「この名前があれば負けないって考えは、傲慢だったね。今まで負けなかったからって、どうしてそんなことを少しでも考えてしまったのだろう。あの二人は、絶対に自分達が勝つと言い切れるようになるまで、どれだけ戦ってきたのかな」

「さあ。想像つかないよ」

 私達と、ほとんど同い年くらいに見えた。だけど、今まで会ったペアの中でも異質で、圧倒的だった。言語闘争の世界にも天才っていうのがいるのだとしたら、あのLIMITLESSの戦闘機みたいな奴のことを言うんだろう。戦略も戦術もなく、ただ力で押し負けた。

「どれだけ作戦を練っても、想像を超えるほどの力を相手が持っていたら、意味がないってことだね」

 そう呟いて、アルミンが微笑む。自分を嘲るように。

「ねえ、アニ。僕達、もっと強くなろうね」

 アルミンのシッポが、ゆっくりと揺れる。LIMITLESSの戦闘機も見惚れていた、豊かで長い毛が綺麗なシッポ。

「機会があれば、またあの二人とも戦ってみたい。またワンサイドゲームになるかもしれないけど」

 力強い瞳のアルミンに、頷きで答える。アルミンの笑顔が、嬉しそうなものに変わった。

「よかった。君が嫌だって言ったら、どうしようかと思った」

「よっぽどのことがない限りは、そんなこと言わないよ。私はアルミンの戦闘機だからね」

 苦笑して、アルミンが空を見上げる。

「でも、言語闘争の世界で強くなるって、どうすればいいんだろうね」

「……頑張るよ」

 私が、あいつらを倒せるくらい、言葉を駆使できればいいんだろう? やってやるさ、いくらでも。

 

 

「イメージが、足りていない」

 ミミなしの少女が、黒い瞳を向けてくる。正直言って怖い。少し前に負けた相手だし、こいつの目から感情が見えないからだ。

「イメージって、どういうこと?」

「戦闘機は言葉を使う際に、その情景をイメージする。防御の場合であれば、それはどのような形状で、いかにして自分達を守るのか。攻撃であれば、どのように相手へダメージを与えるのか」

「言語闘争っていうのは、言葉で戦うもんだろう」

「それは、もちろんそうだ。でも、言葉を具現化するのに、イメージは大切。例えば相手を炎で攻撃するとして、その炎はどのように動くのか。相手に真っ直ぐ向かっていくかもしれない。相手の周りを囲んで、じりじりと熱で攻めるのかもしれない。それを決めるのは、自分。自分のイメージが、炎を形作る」

 意外としゃべるんだな、こいつ。もっと無口なのかと思っていた。

「スペルが拙くても、イマジネーションで乗り切っている戦闘機もいる。言葉を使えれば勝てると思わない方がいい」

「そうかい。そりゃ、ご親切にどうも。……もしかして、わざわざそれを言いに来たの?」

 少女が頷く。赤いマフラーで口元を覆い、

「ミミ、かわいい」

「子どもっぽいってこと?」

「そんなつもりではない。ただ、感情に合わせて動くのがかわいいと思っただけ」

 少女の視線は、私の頭上を向いている。そういえば、LIMITLESSって二人ともミミなしだったっけ。

「あんたらって、誰でミミを落としたの」

「なぜ、そんなことを訊くの?」

 目を逸らした少女は、困った表情になった。私の顔と地面を交互に見て、

「それは、その、お互いで。私はエレンとだし、エレンは私と」

「そうなんだ。好きなの? サクリファイスのこと」

「……好き」

 少女は耳まで真っ赤になったかと思うと、マフラーで顔を隠してしまった。

「私はなぜ、あまり面識のない相手とこんな話をしているのか」

「恥ずかしいなら、馬鹿正直に言わなきゃよかったのに」

 まあでも、安心した。こいつ案外、中身は年相応みたいだ。

「あなたは」

「うん?」

「あなたは、どうなの。あの、サクリファイスの男の子のこと、どう思っているの」

 少女が顔を出す。瞳を輝かせて、私を見てきた。

「何で、あんたにそんなことを」

「私は話した。あなたも言うべき」

 瞳を楽しそうに光らせて、少女が見つめてくる。こうして話してみると、こいつもけっこう普通の女子だ。もう全く、怖くなんかない。

「好きか嫌いかで言えば、好きだよ。守りたいし、アルミンを他の奴に拘束させたくない。でもあんた達みたいに、アルミンとミミが落ちるようなことをしたいかって言うと、分からない。出会ってから、そこまで時間が経ってないし」

「そう。焦ることはない」

 少女が、優しげに目を細める。

「よかったら、あなたの名前を教えてほしい。私は、ミカサ・アッカーマン」

「……アニ・レオンハート」

「アニ。いい名前」

「そんなことを言ったのは、あんたが二人目だよ」

 一人目は、アルミンだった。あの時は名前を褒められるなんて思わなくて、驚いたものだ。

 少女――ミカサは目を丸くしたかと思うと、優しげな微笑みを浮かべた。

 

 

「連絡先を交換した? LIMITLESSの戦闘機と?」

 アルミンが口を大きく開けたまま、私を見る。私は頷いてみせ、

「思ったより話せる奴だったよ」

「そういう問題じゃないだろ!? もし戦闘になってたらどうする気だったんだよ! 向こうはサクリファイスがいなくて普段通りの力が出せなくても、それはこっちだって同じだった」

「うん。戦闘になってたら今頃、私がぼろぼろになってただろうね」

 あいつが、無暗に戦おうとするような奴じゃなくてよかった。本当に。

 アルミンが溜息を吐く。私の頭を抱き寄せて、

「君に、怪我がなくてよかった」

 声が震えている。心配しすぎだ、アルミンは。

「私は、別にあいつと戦闘になっても構わなかったよ。いつもアルミンにばかりダメージを負わせて、拘束がどんなものなのか、体験したことないし」

「君が経験する必要はない。僕はサクリファイスなんだから。僕が全てのダメージを負う。君は、目の前の相手に集中していればいいんだ」

「耳元で大きな声を出さないで」

 まったくこいつは。どうしてそんなことを、そんなにはっきりと言うことができるんだ。

 そういえば、ミカサが言っていたな。エレン――ミカサのサクリファイスが、アルミンを気に入ってるって。

『エレンは自分がサクリファイスだからこそ、サクリファイスに対しては厳しい。サクリファイスはダメージを全て引き受けることで、戦闘機が戦闘のみに集中できる環境を作ることが責務。サクリファイスは、戦闘機に負担をかけるべきではない。それがエレンの考え方。その考えに反する相手には、エレンは容赦しない』

 ミカサはそんなことも言っていた。多分それは、エレンとやらが自分の戦闘機であるミカサを想っているからこその考えだと思う。けど、もしかして私が思っているよりはずっと、サクリファイスの共通認識なんだろうか。少なくともアルミンは、エレンって奴と同じことを考えていそうな気がする。だから、奴はアルミンを気に入ったんだろう。

「何を考えているの? アニ」

「別に。ところでアルミンはさ、サクリファイスが主人で戦闘機が下僕って考え方についてはどう思ってるの」

 身体を離し、アルミンが私の顔を覗き込む。彼は何度か瞬きをして、

「珍しいね。君がそんなことを訊くなんて」

「そんな気分になる時もあるよ、たまには」

 アルミンが私を見つめて、頭を撫でてくる。

「僕はあまり、好きじゃないな。言語闘争は二人で力を合わせて、お互いを励まし、高め合いながら行うものだろ? なのに、サクリファイスと戦闘機の間に主従関係を持ち込んだり、優劣をつけようとしたりするのはナンセンスだと思う」

「そうかい。あんたがそう思うなら、それが正しいんだろう。あんたの判断力は信頼できるからね」

「本当? 君にそう言ってもらえるなんて思わなかったよ」

 嬉しそうなアルミンの笑顔は、好きだ。頭を撫でられるのも、嫌いじゃない。この笑顔を守るためなら、私は何でもできる。まだ、この感情にどんな名前を付ければいいのかは分からないけど。

「アルミン」

「何?」

「これからは、あまり戦闘機だとかサクリファイスだとか、気にしないことにするよ。同じ名前のつがいとして、これからも一緒にやっていこう」

 アルミンは何回か瞬きをして、微笑んだ。

「うん。これからもよろしくね。アニ」

 

 

「えっ、あのLIMITLESSと戦ったの!?」

 幼なじみのベルトルトが、目を見開いている。隣にいるライナーも驚いた様子で、

「まだ戦い慣れてないお前達には、荷が重い相手だったんじゃないのか?」

「何? あんた達、LIMITLESSを知ってるの」

「有名なペアだよ! 戦闘領域が無限にも思えるくらい大きい上に、スペルが早くて正確で、すごくやばい二人だって」

「LIMITLESSとの戦闘で勝ちはないと思え、なんて言われてる奴らだぞ」

 全く知らなかった。まあ仮にその情報を知ってても、あいつらがやる気だった以上、戦闘は避けられなかったとは思うけど。

「まあ確かに、今まで見たことないようなペアだったよ。あいつらは規格外だと思う。でも」

 怯えた顔をする二人を見つめ、私は口を開いた。

「仲良くできると思うよ」

 

----------------

 

update 2013/10/13