変わりゆくもの サンプル
テーブルの上に、住宅情報誌が散乱する。それを見ながら意見を交わしあっている二人を、アルミンは苦笑しつつ眺めていた。
「ここは部屋が広いので、並んで寝ることもできる」
「なんで並んで寝るんだよ!? 一人ひとりの部屋があるほうがいいに決まってるだろ」
「しかし、そのほうが楽しい」
「楽しいってなんだよ。幼稚園児じゃねぇんだから」
口論しているエレンとミカサはどうやら、近いうちに同棲を始めるらしい。二人が付き合い始めたという話すら聞いていなかったアルミンは驚いたが、幼なじみの二人が結ばれたのは嬉しいことだ。二人が思い合っているのは、昔から一目瞭然だった。なかなか距離が縮まらない二人にやきもきしたものだが、それもいい思い出だ。
「アルミン、なぁアルミン。聞いてるか?」
「えっ!? ごめん、何?」
「だから、四部屋あればいいよなって」
「私たちの部屋とダイニングということ? リビングは」
「ダイニングがあれば充分だろ」
アルミンが目を丸くする。
「なんでそんなに部屋がいるの?」
「なんでって、ひとり一部屋ならそうなるに決まってるだろ?」
エレンは何を言っているのだ。何かがおかしい。
「あの、エレン。その三人って」
「オレとミカサと、お前以外に誰がいるんだよ」
アルミンが硬直する。その間にも、エレンとミカサは住宅情報誌を前に、間取りのことを話し合っていた。だが、そんなことはどうでもいい。
「それって、君たちと僕の三人でルームシェアするってこと?」
「それ以外に何があるんだよ」
当たり前と言わんばかりのエレンに、アルミンが眉をつり上げる。
「そんなの聞いてないよー!!」
こうして、幼なじみ三人の同居生活が幕を開けた。
(中略)
「ミカサ。君は今のままでいいの?」
ミカサがテレビへ視線を注ぐ。
「分からない。エレンと、その、アルミンとアニみたいな関係になれれば、きっと嬉しいと思う。だが私は、傍にいられるだけでも充分だ。それに、アルミンも含めて三人で過ごすのも、とても楽しい。だから、今のままでもいい」
テレビ画面の中では、男女のピロートークが繰り広げられている。ミカサは一体、どんな気持ちで見ているのだろうか。
「『今のままでもいい』と『今のままがいい』は、ぜんぜん違うよ。それにいつまでも、今のままでいられるわけじゃない」
「それは、分かっている。アルミンがいつまでも、私たちと一緒に暮らしてくれるとは思っていない」
「そっか。君がそのつもりでいるなら、話は早い」
アルミンが、再度ミカサのほうを向く。
「今日、アニにプロポーズしたんだ。まだ返事は訊いてないんだけど」
ミカサが目を見開いた。視線をさまよわせてから、俯く。
「アニが断るとは思えない」
「そうかな、そうだといいんだけど。もしOKしてもらえたら、アニも僕もいま住んでいるところを出て、二人で暮らすことになると思う」
「それは当然。そうなったら、とても嬉しい。私も、きっとエレンも」
アニからいい返事をもらい、この部屋を出ることになったら。その時を想像して、アルミンがかすかに笑った。
「うん、そうだね」
ミカサも言う通り、エレンも嫌な顔はしないだろう。だがアルミンがこの部屋を去った後は、どうなるのか。
「僕がいなくなったら、ミカサとエレンが二人きりになるけど」
「分かっている。寂しくなる」
「そういうことじゃなくて」
アルミンがミカサに顔を寄せる。
「男女ふたりが、一つ屋根の下で過ごすって状況になるけど、それについてなんとも思わないってことないよね?」